AJCC(株)

(一社)日本ケーブルラボ(東京・中央区、松本修一理事長、以下ラボ)が企画し、AJCC(株)(東京・千代田区、有泉賢社長)が販売窓口を担当するAndroid TV OSをベースとしたスティック端末「Cable IP Stick」。2024年に提供開始し、現在25社が各社独自のサービスを展開中だ。そのCable IP Stickに2つの機能が追加された。同製品を開発したBBM(株)(東京・渋谷区、福﨑伸也代表取締役CEO)、アドバイザーを担当する境 治氏も交え、同スティックの進化を聞いた。

(写真左から)
福﨑伸也 氏 BBM(株) 代表取締役 CEO
新井隆彦 氏 AJCC(株)理事 営業本部長補佐 兼 業務開発部長
境 治氏 氏 ピーライター/メディアコンサルタント

01BBM開発スティック端末 リモコンにCATVボタン追加

総務省の「令和5年通信利用動向調査世帯」において、「テレビ等でのインターネット接続状況が64.7%」との回答が発表されているのをはじめ、さまざまな調査データにおいてテレビのネット接続率及びコネクテッドTVの普及が拡大していることが示されている。

日本ケーブルラボは、2020年、IP時代の将来デバイスとして検討を開始。動画配信サービス、各種アプリ、マイナンバー読み取り機能を搭載したスティック型のテレビ接続デバイス「スマートケーブルアシスタント」の試作開発に着手し、同年の 「ケーブル技術ショー」にて展示した。その際の開発協力をしたのが、「Cable IP Stick」の開発元となるBBM(株)だ。その後、IPスティックの商用化検討を進め、トライアル期間を経て、2024年5月から「Cable IP Stick」として本格商用サービスを開始し、現在25社が採用している。25年5月からは、リモコンに“CATVボタン”が追加された最新機種「TS-403」がリリースされ、“CATVボタン”ひとつで、ケーブルテレビが設定した、特定画面へ遷移できるようになった。

開発担当のBBMは、GoogleのAndroidTVのプロダクト開発を中心に、さまざまなIoT関連の開発を手掛ける企業。Android TV端末をカスタマイズし、プラットフォーム各社にBtoB向けに提供する権利を保有している。

Cable IP Stick「TS-403」
Cable IP Stick画面例[愛媛CATV]

02多種多様な地域情報が提供可能 行政単位での情報提供も

「Cable IP Stick」は、Android TV OS(現在はAndroid TV OS Ver12。年内中にVer 14にアップする予定)をベースに、各ケーブルテレビ事業者が独自に画面を柔軟に構築し(一定の条件あり)、オリジナルメニューを提供するサービス。ケーブルテレビの自社制作番組のアーカイブ映像やライブ配信はもちろん、自治体・行政情報、防災情報など、地域のさまざまなコンテンツが提供できる。これらのコンテンツと横並びでNetflixやAmazonPrime Videoなどの動画配信サービスのアプリがデフォルトで提供される(別途有料契約)。これを実現するのが、「in Room」というBBMが開発したCMS(Contents ManagementSystem)である。

アプリでなくともコンテンツやテキスト情報等も提供可能だ。自治体・行政情報や電子回覧板などは、その情報が掲載されているURLを管理画面上で追記するだけで提供でき、画面デザインの構築も管理も簡単に行える。

「CMSに配信したい情報源のURLを記せば、その情報がバナーエリア上にて表示されます。データ放送やコミュニティチャンネルで提供している定点カメラ映像による河川や道路状況も配信可能です」と、AJCC(株)理事営業本部長補佐 兼 業務開発部長の新井隆彦氏は語る。

STBもAndroid OSを搭載した機種はあるが、ケーブルテレビの独自メニューはプリインストールされないケースもあり、ユーザーがプレイマーケットからアプリをダウンロードする必要がある。「Cable IP Stick」ならば、ケーブル局がサービスメニューを決定し、アプリのラインナップを決定するため、ユーザーがダウンロードする必要がないほか、アプリのレイアウトもケーブル局が決めるため、使われずに眠ってしまう心配も少ない。ケーブル局の“想い”が伝わるソリューションとなっている。

「Cable IP Stick」は、端末のシリアル番号にて管理されている。「出荷時に弊社でケーブル局ごとに設定して納品となります。また、行政区ごとにIDを振り分け・管理することもでき、複数の行政区域でサービスされているケーブル局やMSOならば、C市用、D市用、E市用と、提供メニューを変えて届けることができます。すでに複数の市町ごとにサービス内容を変えて提供している局もございます。また、Jアラートや自治体からの発信と連携し、集中豪雨や地震等発生時の緊急告知などの実施に向けて検討しているケーブル事業者もあります」と新井氏は語る。

03いよいよFASTサービス開始! チャンネル数も18chに拡大

ケーブルテレビ事業者だから実現できる地域密着デジタルサービスに、FAST(FreeAd-supported Streaming Television)が新たに加わる。FASTとは、スマートTVを中心とした新たな視聴スタイルとして、北米やアジアを中心にオンデマンド型の視聴を上回る勢いで急速に伸びている放送型の映像配信サービス。米国の「Roku Channel」では300チャンネル以上を束ね、提供している。BBMは、Googleの技術を活用し、日本版「FAST」システムを開発し、昨年8月から「FASTチャンネル」の提供を開始。現在、12チャンネルをパッケージ化し提供している。今回、「Cable IP Stick」に、FASTチャンネルが加わるが、ユーザーはサービスメニュー欄にある「チャンネル」を選択すれば、提供チャンネルがすぐ視聴できる。

提供チャンネル数も18チャンネルまで拡大する。追加となるのは、GOLF LIFE(GAORA)、エンタメ・アジアFree(エスピーオー)、FASHION+(纏)、ぴあ落語ざんまい(ぴあ)、まるごと九州ch(プランダス)、エンタメニュース(オリコン)(右表参照)。「専門性の高いチャンネルを取り揃え、魅力的なラインナップになっています」と福﨑社長は語る。

FASTは、さまざまなエンターテイメントが提供されるだけでなく、新たなマネタイズにもつながる。FASTは広告による無料放送。GoogleのSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)と接続し、リアルタイムオークションによるインストリーム型の動画広告が主に配信される。「その広告収益は、システム運用費としてB BM、コンテンツ調達・運用費としてチャンネル事業者、そして配信するプラットフォームの3者でシェアします」(福﨑氏)。チャンネル視聴が増えれば、収益も期待できる。福﨑社長は「Cable IP Stickは、私たちの当初イメージを超えた改造がなされ、各局の姿勢や独自性が見える内容です。今回、ケーブル局が発信する地域情報とFASTの2つの魅力が融合しました。今後も新たな取り組みが多数登場し、より進化していくことに期待しています」と語る。

「Cable IP Stick」のコンサルタントである境治氏(コピーライター/メディアコンサルタント)は、「新たにCATVボタンがリモコンに追加されたことと、FASTが加わったことは大きなポイント。これで地域情報からエンタメまで手軽にテレビ画面で楽しめるようになりました。トップ画面を各ケーブル局が自在に設計できるため、加入者に向けて推したいメニューをわかりやすく表示することもできます。このようにケーブル局自らが各局の独自性や地域性を考慮し、自らの手でサービス提供できるのは、非常に大きいと思います。特に災害発生時の情報発信などは、今後さらに求められる機能でしょう」と語る。「Calbe IP Stick」は、地域を熟知するケーブル局だから提供できるデバイスといえるだろう。

FASTチャンネル一覧