30年でビジネスモデルは変わる
新しいビジネスは新しい人が考える
河村さんご自身が30年以上ケーブル事業を率いてきた中で、心がけてきたことは。
河村:過去の成功体験は忘れる、次の挑戦に向かう、ということですね。
成功したビジネスがどんなに良くても、30年経てばビジネスモデルは変わります。最近だと10年くらいかもしれないですね。サービスや技術が高度化する、価値観やライフスタイルが変わる。そういう変化をいち早く見極め、変わる方向に合わせた新しい商品なりサービスを開発しないと、そのビジネスはダメになると思います。その際、過去の成功体験は参考になりません。
私自身が普段から心がけているのは、世の中の動きを見ることです。四六時中、世の中がどうなるのか、街の声はどうなのか、そういうことに関心があります。それは仕事のため、ケーブル事業のためというだけでなく、私の性分かもしれません(笑)。
IoT、AIなど新しいテクノロジーが急速に普及していますが、ケーブルテレビの未来において必要なこととは。また若い世代に向けて伝えたいことを。
河村:通信サービスにおいては、“インフラ回線業”だけでなく、ソフトやアプリのような、インフラの上に載るサービスを開発していくことでしょう。そのためにAIやIoTなど、従来とは異なるイノベーションの要素が必要になってきます。放送サービスにおいては、YouTubeなどの影響もあり、テレビの視聴形態がまったく変わってきていますから、動画配信へどうシフトしていくかがポイントになってくるでしょう。そうなると、受信はSTBなのか、アプリを通してスマホやタブレット等のデバイスになるのか。何れにしても、近い将来STBオンリーではなくなってくると思います。
とはいえ、人々が何に関心を持ち、何を求めているか…、それを追求し、最も適した形で提供する。そういうビジネスの根本的な理念は変わらないと思います。ただ、そのサービスや環境を実現するための技術や、それを取り扱う世代が、これまでとは別次元に違う。今年度のイッツコム決起大会で、私は「新しい酒は新しい革袋に盛れ」という言葉を伝えました。言い古された言葉ですが、世の中が変わるときは、中身も器も全部変えないとダメ、そうしないと新しい酒が腐りますよ、という意味です。新しいサービスは新しい人が考える、それが、これからのケーブルテレビをさらに強くする手段だと思います。
photo by 越間有紀子
PROFILE 河村 浩 KAWAMURA HIROSHI
1947年4月愛媛生まれ。1971年3月一橋大学卒、同年4月(株)東急エージェンシー入社。81年(財)国際科学技術博覧会協会出向。83年東京急行電鉄(株)ケーブルテレビ事業開発室、87年(株)東急ケーブルテレビジョン(現イッツ・コミュニケーションズ(株)放送部編成課長。同社放送部長、総務部長を経て、97年6月同社取締役総務部長、2001年6月同社常務取締役総務部長、04年同社専務取締役、07年同社代表取締役会長、19年4月同社取締役相談役に就任、現在に至る。並行して、2002年6月日本デジタル配信(株)代表取締役社長(現任)。