荻野:これから生き残っていくために取り組むべきは第一次産業、つまり農業ではないかと考えたのです。昭和電工(株)のLED技術を活用し、工業農場で「安全でおいしい野菜」の生産を開始します。現在工場を建設中で、2020年の出荷を目指しています。実は、スマート農業への参入は、13年前にも検討していたのですが、鈴木の反対にあって断念したのです。当時の技術では、安定した品質の確保が難しかったからです。今振り返れば、正しい判断でした。鈴木の先見の明はすごいですよ。私は思いつきで動くので、「社長は勘と運が抜群だ」とほめてくれますが(笑)、鈴木は正反対で、事前に入念な勉強をしてから臨むタイプ。「俺はバカだから、勉強しないとダメなんだ」と本人は謙遜していますが。現在、スマート農業はAIによるセンサーコントロールにより、品質の安定化が図れるようになりました。LED技術も目覚ましい発展をみせており、異なる光源を使って甘い野菜や辛い野菜など、さまざまな品種が栽培できるようになっています。
スマート農業に従事する社員を募集したところ、結構手をあげる人が多いのです。他社からも話を聞きましたが、最近では優秀な人材が農業分野に集まってくる傾向にあるそうです。若者の意識も変わってきているのでしょう。しかし、社員の希望にそう仕事をさせてやりたいので、スマート農業の部署には、手を挙げた志願者だけを配置しようと思っています。安定して生産できるようになれば、お客様一軒ずつに野菜を配るサービスを始めてもいい。顧客満足度も向上できますし、解約防止策の1つにもなるでしょう。全く本業と関係ないことをやっているようですが、製造システムのセンサーやAI管理の仕組みは、当社の技術者が十分扱えるものですし、地域貢献にもなりますから、当社の方向性と大きく違うものではないと考えています。
荻野:スマート農業を始めようしていたのに、断念することになってしまったでしょう。でも資金だけは準備してあったので、せっかくだからこれを使って別の事業に先行投資しようと、太陽光パネルを千葉県香取市、栃木県真岡市、群馬県前橋市、栃木県足利市、埼玉県川島町に設置しました。これらが稼働して、標準的な日照時間さえ確保できれば、定期的に利益が生み出せるようになる。今後、多チャンネル放送での収益が減少し、農業への先行投資でしばらく赤字が続いたとしても、この発電事業でカバーできる仕組みを考えました。この発電事業は入札制で競合他社があったのですが、1週間程の短期間で決断を下したことで、当社がビジネスの権利を得ました。会社の規模が小さいからこそ、他社より迅速な判断ができたのだと思います。スマート農業やソーラー発電事業など、新たな収益モデルを構築しているのは、未来を担う社員たちに少しでも多くの資産を残しておきたいという想いがあるからです。
荻野:当社の事務所は特別な高級感はありませんが、リラックスして仕事ができる居心地がいいスペースになるよう配慮しています。交流の場になっているラウンジもその1つです。社員たちに一流のお酒の味を覚えてもらおうと思って、ラウンジに安いお酒は置いていません(笑)。飲むと本音が出るでしょう。そこでガス抜きをしてもらっています。社員の皆が飲んでいるところに、よくふらっと参加しています。この前も、新入社員がプレゼンをした後でラウンジに集まりました。来客も多く、ラウンジでの行事は恒例になっているので、社内で飲む機会も多いです。
荻野:我々は、市民と行政の中間くらいのポジションであり続けたいと思っています。地域貢献といっても、やり方はいろいろあります。目に見えるところばかり気にしていてはダメ。振り返ってみたら、「あれは地域に貢献できていたな」と思えるような、さりげないサービスに手を広げられる“何でも屋”になりたいですね。無意識のうちに、自然と何かを提供できるのが、地域のメディアだと思います。そういう考えから、電話1本で出動する「スマイル安心おたすけ隊」というサービスを始めました。加入者は、月額500円(税別)で1カ月3回までご利用いただけます。おたすけ隊は、営業担当者6~7名で編成しています。2018年3月末現在、入間市だけで1,226人のお客様が登録してくださっています。「パソコンの操作が分からない」「テレビが映らない」など、いろいろなお困りごとが寄せられると、お助けに行きます。最近は、お客様の家に入れていただく業種は限られてきていますが、当社ではこうしたサービスを通じて、お客様との距離を縮めることができています。
今年は元日に、私の携帯にもお客様から電話が入りました。会社への電話が何人かに転送される仕組みになっているのです。それで、「ご用件は何でしょう」と尋ねると、「ガスレンジが壊れてしまったので、何とかしてほしい」という内容でした。鈴木に頼んで出動してもらいました(笑)。こういう会社宛ての電話が、ときどき社員個人の携帯にも転送されていますが、これまであまり無理なご相談はなく、現在のところスムーズに運用できています。地域の皆様が何にお困りなのか、我々が把握できるという利点もあります。
この4月からは、地域ごとに担当者を決めて出動する体制を整えました。これまでは、手すきの人間が出向くことにしていました。急を要する場合はそれでよいのですが、時間に猶予がある場合は、「担当者が戻り次第伺います」とお約束して、少しお待ちいただいています。そうして地域の担当者の名前を売り込んでいくことで、新しいお客様をご紹介いただく機会が増えることにも期待しています。