大橋弘明 氏 (株)ハートネットワーク


これからはターゲットを変えて新たなマーケットを見つけることが必須
会社経営において、これまで最も苦労されたことは何でしょう。

大橋:人材育成ですね。当社は毎年3~4人を雇用していますが、現在の社員数は30人強。いろいろな事情で辞めてしまうので、人材を定着させることの難しさを感じています。働いていると、家庭環境の変化や育児との両立という課題にも直面するでしょう。現在、育休明けで30代前半の社員が5~6人います。彼女たちが頑張ってくれて、管理職になりガンガン現場を仕切ってくれたらいいなと期待しています。
もうひとつ、IT関係や通信の技術に強い人材が、なかなか集まらないという課題もあります。どうしてもそういう人材は、我々のような地方の企業には来てもらえない。となると、技術の知識がない社員にスキルアップしてもらうしかない。私だって何も知らないところからここまで来ることができたんですから、理系の大学を出ていなくても何とかなるでしょう。そう言いながら社員にハッパをかけています(笑)。

人材育成という点では、毎年、新規採用には力を入れていらっしゃいますね。

大橋:当社は新規募集をしており、30年以上、定期採用の実績があります。新入社員達が将来「いい会社に入ったな」と思えるよう、事業を成長させなければいけないと常々そう思っています。
振り返れば、事業をスタートさせた頃の当社の唯一の強みは資本金が大きかったこと。当時、新居浜に本社を構える企業の中では最大でした。当社の株主には地元の優良企業が名を連ねているわけですから、徐々に地域の皆さんから信頼感が得られたのでしょう。でも最初は知名度がなかったので、入社試験を受けに来た学生が、親に(入社を)反対されたと言っていました。最近は当社に就職が決まると、親が赤飯を炊いて喜んでくれるそうですよ(笑)。

全国の事業者は、各々の生き残り策を真剣に考えていく必要がありますね。業界の今後をどのように展望されますか。

大橋:今や地方は県庁所在地ですら人口減少が始まっていますので、従来のビジネスモデルにしがみついていては、立ち行かなくなるでしょう。人口ボーナスという言葉があります。人口が増加すれば、モノが売れるようになる。マーケットが膨らむので、あまり努力しなくても売り上げが伸びていく。その反対が人口オーナスです。人口が減ると、同じことをやっていても顧客が自然減少していく。ケーブルテレビの解約データを見ると、他社への乗り換えが一番なのではなく、高齢者が亡くなったり、施設に入ってしまうこと、あるいは、失職した人が地域を離れてしまうことなんです。これらが解約理由の7割以上を占めています。人口オーナスに対処するには、ターゲットを変えて新たなマーケットを見つけることじゃないでしょうか。
競争が激化していますから、何もしないでいれば完全に置いていかれます。5G時代を迎える前に手を打たなければ、未来はないと思います。私は周囲の反対を押し切って、地域WiMAXを推進してきましたが、それでケーブル事業者が無線の免許を受けられるようになった。厳しい時代ではありますが、無線のサービスには大きなチャンスがあると思っています。

最後に、若手社員や未来の新入社員に向けて、メッセージをお願いします。

大橋:広い世界を見てほしいですね。当社では、設立当初は社員を外で学ばせていました。一期生の社員13人は、住友電工さんにお願いして、全員を大船工場に1週間送り込みました。また、同業のケーブル局さんにもお世話になりました。ひと月ごとに別の部署を経験させてもらうという条件で働かせてもらいました。いまの若い人は、欲がない人が多い。真面目に学ぶけれど、それを今後にどう活かすかを考えるのは苦手。でも中にはガッツがある人がいますから、そういう人達には、いろいろ経験してもらい、どんどんスキルを伸ばしていってもらいたいですね。

photo by 越間有紀子


PROFILE 大橋弘明 OHASHI HIROAKI
1952年生まれ 同志社大学経済学部卒。1988年3月新居浜テレビネットワーク(株)(現(株)ハートネットワーク」)設立、代表取締役社長就任(現職)。〈兼職〉四国アセチレン工業(株) 常務取締役 〈主な公職・団体〉(一社)日本ケーブルテレビ連盟 副理事長