髙橋孝之 氏 (株)中海テレビ放送


地方自治体や地元企業が株主である関係から、報道体制を持たないケーブル局が大半です。報道する難しさなどは感じたことはありませんか。

髙橋:私からすれば、放送局が報道部門を持っていないのはおかしいと思います。中海テレビは開局時より弁護士や教師など10名ほどを集い、第三者委員会を作り、番組制作上のモラル等は徹底しています。開局から今日まで30年、第三者委員会でお叱りもたくさん受けてきましたが、厳しい意見を言ってくれる人ほど頼りになるものはありません。
ビデオジャーナリストシステムの導入により、一人ひとりの責任区分が明確になり、競争意識が芽生えます。仮に他のメディアが放送し、中海テレビで放送しないニュースなどがあった場合、その担当者は責任追及されます。これによって各自が一生懸命さまざまな人たちとコミュニケーションを取り、彼ら独自のネットワークを作るようになります。

放送だけでなく、地域貢献事業もたくさん手掛けられていますが。

髙橋:放送で「町をキレイにしましょう」と伝えるだけでは意味がありません。狭いコミュニティ内で放送する私たち自らが率先して行動することが大切だと思います。
そのひとつが、「中なかうみ海再生プロジェクト」。中海は、鳥取県米子市と境港市、島根県の松江市・安来市にまたがる湖ですが、水質が悪化の一途を辿り、浜辺にもごみが散乱していました。この中海を「泳げる中海」にしようと、番組『中海物語』を制作し、市民に呼び掛けるとともに、米子市や地元企業、そして住民とともに「中海アダプトプログラム」を実施しました。アダプトプログラムとは、市民団体や個人が公共のスペースを分担して、自分の子どものように面倒をみるという、住民と自治体が協働で進める、新しい「まち美化活動」。この活動は2007年3月から今日まで継続しており、今もアダプトプログラムの活動内容をコミュニティチャンネルで放送し続けています。これらの結果、中海の水質が改善し、オープンウォータースイム競技が開催されるまでになりました。

6つのコミュニティチャンネル運営、多チャンネル放送、インターネット、固定電話、携帯電話、電力事業と、技術革新とともにサービスの多様化を図ってこられました。30年間の技術革新をどのように受け止めていますか。

髙橋:開局時にインターネットという概念はありませんでした。今考えると、インターネットには経営的に相当助けられたと思います。
テレビも携帯電話も技術革新で飛躍的に進化しましたが、どうもケーブルテレビ業界全体でこのテクノロジーの進化を扱いきれていないように思います。その中で、うまく活用できたのが、緊急災害情報の発信ではないでしょうか。これによりコミュニティチャンネルが地域の防災メディアとして見直されたと思いますし、緊急災害情報からコミュニティを再び創生できると思います。
残念なのは、送り手である私たち放送局も利用者である一般の方々も、メディアリテラシーが技術革新に追いついていない点が問題だと思います。