ミハル通信(株)

仙台CATVが導入し、放送設備の安定・技術者不足対策・負担軽減を同時に実現

仙台CATV(株)(宮城・仙台市、梶本武宏社長)はミハル通信(株)(神奈川・鎌倉市、岩田春樹社長)の「CATV監視装置」と保守サービス「M-3(エム・トリプル)」を組み合わせて運用している。「CATV監視装置」でヘッドエンドの状態を常時監視し、もし機器の障害などがあった場合は、直ちに「M-3」の技術者によるリモート保守で解決する。導入によって、放送設備の安定・技術者不足対策・負担軽減を同時に実現した仙台CATVに、両ソリューションの相乗効果を発揮させている運用方法、導入の背景と目的、AIを活用した新機能の導入など今後の構想について取材した。

(写真左から)
梶本武宏 氏 仙台CATV(株) 代表取締役社長
花田 力 氏 仙台CATV(株) 技術部長

01「CATV監視装置」で障害の兆候も 人手をかけずに自動で検出

仙台CATVがミハル通信の「CATV監視装置」と「M-3」を導入した目的は、大きく3つある。第1に、放送設備の安定運用と信頼性の向上。これは総務省からの要請も背景にある。第2に、技術者不足への対応。限られた人員での運用を機器の導入で補完する。第3に、従業員の負担軽減だ。仙台CATVの梶本武宏 代表取締役社長は、「当社では、比較的古い放送設備が多く、順次リニューアルを進めていますが、設備故障のリスクは依然としてあります。そのため、設備の監視を強化しなければなりませんでした。事故発生時には原因の切り分け作業にかかる時間は短縮したいという狙いもありました。特に同軸伝送設備などの原因切り分けは、経験に基づく対応が主流だったため、原因分析と対処をシステマティックに行うことを目指しました。人員不足という背景もあり、それを補うためにも障害の原因分析、事故の防止・抑止を可能とするシステムの構築が必要でした。そこでベンダー各社のシステムを検討し、ミハル通信の機器を採用しました」と説明する。

「CATV監視装置」の活用については、主に緊急時のアラートメールの発報と、その際の原因切り分け用として利用している。ユーザーから問い合わせがあった際に、それが加入者宅内の問題か、全体的な設備の問題かを判断する目的でも使用している。

従来の人による監視では、障害の兆候を捉えることが難しいという課題があったが、「CATV監視装置」の導入により、「ヘッドエンドの最終段の出力を監視することで、①障害の兆候を事前に把握できるようになり、②そのような場合には、大きな障害に拡大する前にミハル通信に相談することも可能となりました。障害の兆候の把握と事前対応が、『CATV監視装置』導入の目的の一つです」(仙台CATV 技術部長 花田 力氏)。

また、「CATV監視装置」導入以前は毎朝、仙台CATVの担当者が画像と音声の送出確認を1チャンネルずつ合計約1時間弱行っており、非常に手間がかかっていた。人員が少ない中で、担当者が休みの場合は代わりの職員が対応しなければならず、負担が大きかった。「『CATV監視装置』の導入により、ヘッドエンドを一元的に管理できるようになり、毎朝全チャンネルを確認していた作業の負担を軽減できました。『CATV監視装置』が自動で監視してくれるという安心感もあります」(花田部長)。

02「M-3」は常時技術者が対応 夜間でも障害復旧できる安心感

「M-3」に関しては、導入前の放送機器の保守点検は、年4回のオンサイト保守点検のみであり、能動的な機器監視は行なっていなかった。そのため、点検は実施していたものの、「実際の対応は事故発生後となる受動的な運用となっており、不安を感じていました。また、特に夜間帯における障害発生時の担当者へのエスカレーションや障害の切り分け、技術的サポートについて、課題がありました。そうした中で、『M-3』の導入がこれらの問題の解決につながるのではないかと考え、ミハル通信に相談しました」(花田部長)。

ミハル通信は仙台CATVの意向をくみ取り、要望に応じたサービス内容へと「M-3」のカスタマイズも行なった。その効果もあり、仙台CATVは現在、安心して設備を運用することができるようになった。「『M-3』は固定的なサービスではなく、保守・監視サービスの内容を状況に応じてブラッシュアップできる点に、大きな魅力を感じています。今後も状況の変化に対応していただきたいと期待しています」(梶本社長)。仙台CATVが「M-3」のカスタマイズの要望で特に重視していたのは保守の体制面で、NOC(Network OperationsCenter)のようなリモート保守体制を構築することを希望し、ミハル通信はその期待に沿うべく体制を整えている。特に小規模なケーブルテレビ事業者はこのような保守体制を求めている事業者が多いだろう。

仙台CATVでは「M-3」の保守サービスの一環としてミハル通信から毎月提供される点検レポートも活用している。レポートの内容の一つに、放送設備のログ解析がある。気象状況などが原因で予備系に切り替わった機器を本系に戻す作業に、ログが役立っている。予備系のままにしておくと障害発生時に切り替えができなくなるため戻しておく必要があるが、予備系のままになっている場合はレポートのログによってその状態に気づくことができる。

レポートは設定の見直しにも活用している。「最近ではBS放送の再編により、使用しているトランスポンダの移動などの変更がありました。それに対して、レポートでは『この設定を直した方がよい』といった指摘、提案が行われます。これに基づき、担当者が設定変更を実施しました。場合によっては、ミハル通信がリモートで設定変更などの対応をしてくれることもあります」(花田部長)。仙台CATVでは毎月、レポート内容を担当者が確認し、必要な作業を行なっている。

ケーブルテレビ事業者の放送設備の障害は、それほど頻繁に起きるものではない。「ミハル通信の製品は安定しており、運用に問題はありません。しかし、一度事故が発生すればその影響は非常に大きくなるため、『CATV監視装置』や『M-3』の導入が重要だと考えています」(花田部長)。実際に昨年、コミュニティチャンネルでブロックノイズが発生したケースがあった。その際には「CATV監視装置」からアラートメールが発報され、仙台CATVの担当者はすぐに「M-3」の保守受付窓口に連絡し、障害の原因切り分けを依頼した。「『M-3』の窓口にはミハル通信の技術者が常駐しています。他社の保守窓口では、当日は受付だけして『詳細は翌営業日に回答させていただきます』といった対応をしているところもありますが、『M-3』は即座に技術的な見解を示していただきました」(花田部長)。

この事例では、障害の原因はミハル通信の装置ではなく、EPGの設定に問題があったのだが、この原因切り分けの回答を短時間で得られた。「『M-3』の窓口に連絡したのは夜の22時頃でしたが、電話してから30分程度で迅速に見解を受け取ることができました。その後、仙台CATV社内で担当部署へのエスカレーションを行い、関係ベンダーに調査を要請した結果、受付担当者の指摘通りの原因であることが確認されました。『M-3』を導入していてよかったと思いました」(花田部長)。

現在「M-3」の保守サポートを担当しているスタッフは、ミハル通信でもともと技術開発部署に所属し、ソフトウェアなどの開発や検証に携わっていた経験を持っており、その専門性がサポートに活かされている。仙台CATVの梶本社長も「このような原因切り分けではスピード感が重要であり、次の行動にすぐ移れるかどうかで当社の対応の質が大きく変わります。すぐに対応できる『M-3』の担当技術者は優秀です。『M-3』を選んでよかった」と評価する。

ケーブルテレビ事業者の経験の浅い従業員が問い合わせた場合でも、『M-3』の専門的な技術者が対応するのは「非常に助かります。ケーブルテレビ事業者の保守管理としても、担当従業員に対し的確な指示が出しやすくなります」(花田部長)。

03対象機器の多さは「非常に魅力的」 「M-3」のAI新機能にも期待

「M-3」がサポートする対象の機器は、当初はデジタルヘッドエンドからスタートしたが、現在はHFCの送受信設備などにも拡大している。ミハル通信はネットワーク監視機能を実装した製品を増やしており、「M-3」のサポートの対象となっている機器が増えている。仙台CATVは現在、FTTHの拡大を推進している。FTTHの放送系設備も「M-3」のネットワーク監視、リモート保守が可能になる見通しで、仙台CATVの期待は大きい。「今後サポート対象機器が広がっていく見通しも、当社が『M-3』を採用した決め手の一つです」(花田部長)。現在、各ベンダーの放送機器の多くがネットワーク監視に対応しつつあるが、「ベンダーによっては、ネットワーク監視機能はあってもリモート保守などのサービスメニューがない場合も多いですが、ミハル通信の機器の多くは『M-3』のリモート保守を利用できます。このことは、ケーブルテレビ事業者の設備運用者にとって非常に魅力的です」(花田部長)。今後も「M-3」のリモート保守の対象となるミハル通信製品が増えることに仙台CATVは期待している。

「M-3」には新サービスも追加され、利便性がさらに向上している。「CATV監視装置」など監視装置は機能が優れている分、障害時に発報されるアラートメールの件数が多くなる。その中には対応が必要な障害だけでなく、例えば静止したような映像が多い囲碁・将棋などの番組を「CATV監視装置」が障害と誤認し、実際には問題がないにもかかわらずアラートメールが送られてしまうケースも多い。従来の仕組みではこうした誤検知を完全には防げず、仙台CATVの場合はアラートメールの約9割が実際には障害ではないケースで、アラートメール受信後の対応の判断は担当者に委ねられているのが現状だ。

この課題に対して、現在仙台CATVでは「M-3」の新サービスとしてミハル通信が開発した「コンテンツ判定AI」を実験的に導入している。このサービスは、正常だが動きのない映像が障害と誤認されることを防ぎ、不要なアラートメール発報を抑制するもの。「ケーブルテレビ事業者の負担軽減を実現する新サービスと期待しています」(花田部長)。不要なアラートメールが多いという課題は、ネットワーク監視機能を持つ機器を使用している他のケーブルテレビ事業者でも共通しており、ミハル通信は障害と誤検知された映像データを仙台CATVはじめ各事業者から提供してもらい、AIの学習に活用し機能向上を進めている。「日本全国のケーブルテレビ事業者のデータを活用した、より信頼性の高いサービスの開発をぜひお願いしたいですね」(梶本社長)。

仙台CATVは自社だけでなく、業界の中小規模のケーブルテレビ事業者が抱える機器の監視・保守に関する共通の課題を解決するため、「M-3」の新サービスの実験的導入を通してミハル通信にフィードバックを行い、カスタマイズやサービスの改善に協力している。「その結果、『M-3』が他の事業者にとってもさらに優れたサービスとなることを目指しています。ケーブルテレビ事業者各社のエンジニアを助けるサービスとして、さらに有用になることを期待しています」(花田部長)。

解説 監視装置

「CATV監視装置」は各種信号、映像・音声を客観監視障害を兆候段階から高精度・早期に検知しアラート通知

ミハル通信が提供しているケーブルテレビ事業者向けの監視装置は、「CATV監視装置」「FTTH監視装置」「受信点監視装置」の3機種のラインナップだ。 「CATV監視装置」は2014年にリリースされた。これは東日本大震災を受け、放送の強靭化をケーブルテレビ業界が総務省から求められたことに対応した製品だ。

従来、ケーブルテレビ事業者は、ヘッドエンドの放送機器から障害時にアラートが発報されたり、ユーザーから映像が映らないといった問い合わせを受けたりしてから対応していた。 「それに対して『CATV監視装置』は、機器がセルフチェックで異常を検知するのではなく、出力されている信号そのものを客観的に監視する装置なので、障害を兆候段階から早期に検知することができます」(ミハル通信(株) 技術統括本部 ソフトウェア開発部 開発2課 主任 稲畑稔秋氏)。ヘッドエンドのすべての信号を入力し、RFレベルだけでなく、BER、MER、TS、TLV、映像、音声まで監視する。RF信号が正常でもTSレベルで異常がある場合、例えば映像が表示されない、ブロックノイズが出る、音声が出ないなどの状態も検出できる点が大きな特徴だ。高度BS放送の監視機能も持っている機種もある。

ヘッドエンド機器のセルフチェックによるアラートに基づいて保守を行うことも可能だが、実際の状況を正確に把握するためには「CATV監視装置」の導入が有効だ。セルフチェックでは限られた情報しか得られず、例えば、SPコントローラーソフトでは信号レベルの監視程度しかできない。しかし、信号レベルに変動がなくても信号自体に異常がある場合もある。「CATV監視装置」はより細かなデータを取得・保存でき、過去の状況を遡って確認することが可能であるため、原因特定がしやすく、対応に必要な情報もスムーズに集まる。

「CATV監視装置」を使わない場合、セルフチェックで検知できない障害は視聴者が先に気づくことも多い。「CATV監視装置」を導入することで、事業者が先に障害を把握できるというメリットがある。実際にあるケーブルテレビ事業者では、夜間のメンテナンス作業中に同軸ケーブルの接続不良で停波が発生したが、「CATV監視装置」を導入していれば映像・音声の客観監視により異常にすぐ気づくことができたとして、再発防止策として導入を決めた。客観監視をすることで、「機器からはアラートが出ていないが、実際の映像には問題があり、先に視聴者から問い合わせがあった」といった事態を未然に防げる。また、セルフチェックの場合は、その機能が故障しているためにセルフチェックが働かず、異常を検知できないこともあるため、「CATV監視装置」の導入を勧めたい。

「FTTH監視装置」はサブセンターの監視を目的とした製品だ。サブセンターに設置し、マスターヘッドエンドからの放送信号を光信号のまま入力・監視する。提供エリアの広い事業者に適した製品で、サブセンターが複数ある場合はそれぞれに「FTTH監視装置」を設置し、マスターヘッドエンドで集中監視できる。 「受信点監視装置」は衛星や地上波の信号を受信点で直接アンテナから入力し、受信した時点での信号が正常かを監視する装置だ。「ヘッドエンド側で信号の異常が発生していても、実際には受信点での降雨減衰やアップリンク設備の障害が原因の場合もあります。『受信点監視装置』を用いれば、それが受信点やアップリンクの問題か、自社設備の問題かを判別できます」(ミハル通信 稲畑主任)。

監視装置は全国で約1,000台が導入されており、導入ケーブルテレビ事業者数は約100社にのぼる。MSOや大規模事業者は各拠点に設置していることが多い。

ミハル通信(株) 技術統括本部 ビジネスソリューション部 部長 岡村喜弘氏(中央)、同本部 ソフトウェア開発部 開発2課 主任 稲畑稔秋氏(右)、同課 堀口 優氏(左)

解説 保守サービス「M-3(エム・トリプル)」

ミハル通信の技術者チームが24時間365日対応 ヘッドエンド装置にリモート接続し障害復旧作業

ミハル通信が提供するケーブルテレビ事業者向けの保守サービス「M-3(エム・トリプル)」は、2021年にサービスを開始した。全国で多数のケーブルテレビ事業者が採用している。従来からミハル通信は自社機器に関するサポートを行っており、障害や機器の挙動に問題が生じた際にはスタッフが対応していた。しかし、放送の高度化やデジタル化、BS4K・8K放送の開始により放送信号が複雑化し、信号処理の難易度も上昇したため、これらに対応する高度なサポートをサービスとして提供することとなった。

信号処理の複雑さにより、従来の電話やメールによるサポートでは対応が困難になりつつある。そのためミハル通信では、事業者の設備とリモートで接続し、事業者のサーバーを直接確認しながら対応できる仕組みを構築した。「緊急の場合は、リモートアクセスを通じて状況を確認し、リモート操作で問題を解決することもできます。リモートアクセスには、専用のセキュリティ対応ツールによる安全な暗号化通信環境を使用しています。機器の交換や再起動が必要な重障害時には、現地対応することもあります」(ミハル通信(株) 技術統括本部 ビジネスソリューション部 部長 岡村喜弘氏)。「M-3」はこうした復旧支援を中心とした保守サービスだ。

具体的な対応手順としては、まず機器に障害が発生した際に事業者が「M-3」の担当者へ連絡。連絡を受けた担当者がリモート操作で異常箇所の確認と復旧作業を行う。リモート環境を活用することで、常時問い合わせ対応や障害復旧が可能となっている。「M-3」側では事業者が使用している機器のバージョン情報も把握できるため、バージョンアップへの対応も行える。

「M-3」では、サポート体制の強化として専門のサポート組織を新設した。これまでは、本社の技術開発スタッフや地方拠点の営業担当が電話でサポート対応していたが、営業担当では技術的に対応できないケースもあったため、専門スタッフが常時対応する体制を整えた。「M-3」は24時間365日契約の場合、いつでも受付とサポート対応可能だ。他社でも24時間365日受付を謳っているところはあるが、実際には夜間は電話やメールの受付のみで、対応は翌日となることもある。それに対して「『M-3』は緊急の場合、深夜でも即対応するため、ケーブルテレビ事業者は安心していただけます。『M-3』の対応は、当社の技術統括本部 保守サポート課のスタッフたちが担当しています」(ミハル通信 岡村部長)。 自治体が運営するケーブルテレビ事業者など、平日9時から17時までの対応で十分な事業者向けには「ライトコース」も用意されている。ライトコースでも復旧支援は含まれており、契約時間外の夜間などに復旧が必要となった場合には、スポット契約での対応も可能だ。

「M-3」と「CATV監視装置」などの監視装置には相乗効果がある。監視装置を併用することで、放送機器の障害検出能力が高まり、「M-3」のリモート保守において機器の状況確認が非常にしやすくなる。

「M-3」を使用していても監視装置が導入されていなければ、「M-3」側で状況を詳しく把握することができず、障害ポイントを特定するのが困難になる。監視装置が導入されていない場合には、ケーブルテレビ事業者に信号チェッカーをヘッドエンドに接続してもらい、信号の有無を確認する必要が出てくることもある。

一方で、監視装置を導入していても「M-3」を利用していない場合には、ケーブルテレビ事業者が自ら監視装置のアラートに対応しなければならず、適切な対処が難しい場合がある。「M-3」を導入していれば、ミハル通信がサポートを引き受け、システム全体をカバーする復旧作業が可能となる。したがって、ケーブルテレビ事業者にとっては、監視装置と「M-3」を併用することが望ましい。

「M-3」の利用状況については、今年3月時点で全国のケーブルテレビ事業拠点28カ所にリモート環境を構築し、サポートを実施している。甲信越、中国、九州地域の事業者での導入が特に多い。

解説 「M-3」のAI新機能

AIが映像を判別し不要なアラートメールを抑制 降雨減衰かアンテナ故障かを判別する機能も開発

「M-3」は4月、AIを活用した新サービスとして「コンテンツ判定AI」をリリースした。従来、一定時間同じ映像が続いた場合、「CATV監視装置」は映像のフリーズと判定し、ケーブルテレビ事業者の担当者のPCやスマートフォンにアラートメールを送信するが、囲碁・将棋番組など動きは少ないが正常な映像もフリーズと誤判定され、アラートメールが送信されてしまっていた。例えば、囲碁・将棋番組や競輪・競馬番組のオッズ表示、議会中継で「○時○分から再開します」といった画面、放送大学のフリップ表示などでも、フリーズと判定されることがあり、深夜にケーブルテレビ事業者の担当者のスマホに通知が届いてしまうという課題があった。

これに対応するために「M-3」では、「コンテンツ判定AI」機能をオプションとして提供開始した。「これまで蓄積された監視画面の画像を学習データにしたAIが、囲碁・将棋、オッズ、フリップ表示などを判定し、その場合はアラートメールをフィルタリングします。これにより、重要度の高いアラートを優先し、不要なアラートを減らすことができます」(ミハル通信(株) 技術統括本部 ソフトウェア開発部 開発2課 堀口 優氏)。従来はアラートメールが届いた後に、事業者の担当者が目視で画面を確認し、「これは囲碁でフリーズではない」と判断していたが、今後はその判断をAIが担うことで、より高度な監視が実現する。

「M-3」は7月、AIを活用したもう一つの新サービス「降雨減衰予測AI」も追加した。従来、BERやMERに劣化が生じて「CATV監視装置」からアラートが出た際、原因が降雨減衰かアンテナの故障かを判別できなかった。降雨減衰が原因である場合、ケーブルテレビ事業者には対応策がないため、「降雨減衰予測AI」は降雨減衰と判断した場合はアラートメールを送信しない。一方、アンテナ故障と判断した場合は、事業者にアラートメールで通知する。「CATV監視装置」では不可能な原因の判定をクラウド上のAIが行うことで、より高度な監視を実現する。

「『降雨減衰予測AI』は各ケーブルテレビ事業者の受信点周辺の気象情報や降水量を機械学習し、降雨減衰の可能性を判定します。アンテナの高さや緯度・経度から衛星への仰角を計算し、降雨減衰か否かを判定する機能を備えています。事業者の受信点のアンテナ周辺だけでなく、衛星へのアップリンク送信局側のアンテナ周辺も監視対象とし、アップリンク送信局側での降雨減衰によるアラートもフィルタリングします」(ミハル通信 堀口氏)。ケーブルテレビ事業者の空には雲一つないにもかかわらず、BS放送でブロックノイズが発生することがあるが、これは首都圏のアップリンク送信局周辺の局地的な雨が原因である場合が多い。このようにダウンリンクとアップリンクの両方の降雨をAIが自動で予測し、障害の原因を切り分けることができる。アップリンク送信局がある地域の気象情報を事業者が自力で調べるのは手間がかかる。これをAIが代行して自動で判定する仕組みだ。BCP(事業継続計画)の観点から、同一県内で複数の事業者が「M-3」を導入することで、将来的に、降雨減衰発生時に受信点を相互に切り替えて共用することも可能となる。