第3回 <Part1>: さまざまな分野へのチャレンジ
「挑み続ける業界フロントランナー」は月刊『B-maga』の新企画として、インターネットの基礎技術を活用した新たな事業やサービスに挑むフロントランナーを訪問し、その着想から、社内外の調整、システム構築、運用上の課題や成果までをレポートしています。
業界での横展開が加速されることを期待して、月刊『B-maga』での記事に加え、WEBページで詳細に解説し、さらにYouTube Channelでは経営層から企画や技術の担当者に登場いただき、生の声を紹介するという、メディアミックスでレポートしていますので、参考にしていただければ幸いです。
第3回は株式会社秋田ケーブルテレビ(CNA)を訪れ、
Part 1 : さまざまな分野へのチャレンジ
Part 2 : 地域IXによるトラフィック流通効率化
Part 3 : LPWAを活用した防災に関する実証実験
をとりあげ、きっかけや苦労話、現在の役割、さらには今後のビジョンなどをお聞きしました。
インタビュアーは一般社団法人日本ケーブルラボの宇佐見正士専務理事にお願いしました。
ご回答は株式会社秋田ケーブルテレビから代表取締役社長の末廣健二様、 事業創生本部 リーダー 島田恵太様、同本部 サブマネージャー 遠藤和幸様にお願いしました。
Part 1~3とも、インタビューは2024年3月8日、CNAグループが運営している秋田駅直結のリモートオフィス「Atelier AL☆VE」にて収録させていただきました。
1. CNA チャレンジのきっかけ
JLabs/宇佐見:株式会社秋田ケーブルテレビ(CNA)さんは高齢者支援事業や駅前のにぎわい創出事業、あるいは映画館シネマやエンターテインメントなど、さまざまな分野にチャレンジされていると伺っております。
また、さらにICTやIoT事業も積極的に挑戦されているようですけれども、そのきっかけをまず社長からお聞かせください。
CNA/末廣:秋田ケーブルテレビは、1997年に開局しましたので、まだ26年ですかね。
他のケーブルテレビ局よりもかなり新しくて、すぐにケーブルインターネットもスタートすることができたので、ケーブルを引いて片方向の信号だけで放送サービスのみの期間に累損がたまってしまい、それから累損を一掃するという、いわゆる谷間は比較的他のケーブルテレビ局と比べて浅かったのかな。
そういう意味では、30万人を切ったような秋田市の提供エリアではありますが、財務的には新しいことをチャレンジできるぐらいの形にはなってきたのかな。
私が着任したのが11年前で、今年の4月1日でまる11年になるんですけれども、その時に業界全体では当然「多チャンネル」「インターネット」「電話」という、いわゆるトリプルプレイを4つ目の柱というような議論がちょうどなされていました。
その時に、業界のまとめみたいなものを前任社長の松浦から渡されて、それを読んでいたときに、今でいう地域課題の解決というか(その当時はあまり地域課題みたいなキーワードはなかったと思うんですけれども)、個社でできることを自分らの手でイノベーティブしていくというか、そういうことが必要じゃないかというふうに私自身は読んでいました。
社名 | 株式会社秋田ケーブルテレビ(英文:Cable Networks Akita Co.,Ltd.) |
愛称 | CNA |
代表者 | 代表取締役社長 末廣健二 |
住所 | 秋田市八橋南一丁目1-3 |
設立年月日 | 昭和59年6月12日 |
開局日 | 平成9年12月1日 |
資本金 | 12億円 |
売上高 | 4,134百万円(2022年度実績) |
事業地域 | 秋田市、三種町・五城目町・潟上市・由利本荘市の一部 |
総接続世帯数 | 54,826世帯(2023年3月31日現在) |
従業員数 | 単独112名 グループ全体188名(2023年4月1日現在) |
一方で地政学的という言い方が良いのかどうかわからないですけれども、秋田県というのは日本の中でも人口の減少率が大きくて、僕が来たときは秋田県の人口という意味では106万人だとか、108万人だとか、そんなレベルが今はもう93万人を切ったみたいな話で、もう10%以上減っている。ここ10年でですね。
そういう意味ではB to C、世帯のCですけれども、そこを利益の源泉というか、そういうところだけで商売していたら、どんどんマーケットのエヌ(n)数が減っていく中で、他のケーブルテレビ局と比較してというのはあんまり好きじゃないけれど、危機感というのはこのまま昨日と同じ仕事をしていたら、一番先にシュリンクしていくんじゃないかと。
2. 本社ビル移転からALL-A設立
CNA/末廣:そういう中にあって、私はもともと商社に勤めていて、いろいろ新しいことをやってきた経験もありましたので、これでちょっとスピードを上げていろいろなことにチャレンジしていかなきゃいけないなと。そこで一番最初に手がけたのは本社ビルを移転するという、従来ずっと考えていた話を具現化するということでした。
秋田県の施設を借りて、そこをリノベーションして引っ越しをし、その後、やはり少子高齢化や人口減少とリンクしていくんですけれど、高齢者がどんどん増えていく中において、当時からケーブルテレビのお客様は高齢者の人も多いわけで、やはり社会交流を目指さなきゃいけない。
たまたま秋田市がWHOのエイジ・フレンドリー・シティ・グローバル・ネットワーク(注1)に参加しました。
注1:エイジ・フレンドリー・シティ・グローバル・ネットワーク (Age-friendly Cities Global Network)
「Age-friendly Cities (高齢者にやさしい都市)」とは世界的な高齢化・都市化・都市の高齢化に対応するため、2007年、WHO(世界保健機関)において提唱された、都市が策定する行動計画のための指標。
Age-friendly Cities の中で、①屋外スペースと建物、②交通機関、③住居、④社会参加、⑤尊敬と社会的包摂、⑥市民参加と雇用、⑦コミュニケーションと情報、⑧地域社会の支援と保健サービスの8つのトピック、さらに84のチェックリストが示されており、高齢者にやさしい都市としての自己診断ツールとしても活用されている。
さらにWHOはエイジ・フレンドリー・シティどうしが都市間での連携を図ることを目的に、2010年にエイジ・フレンドリー・シティ・グローバル・ネットワークを設立し、世界中に参加を呼びかけた。
秋田市は2011年12月、国内で一番最初にグローバル・ネットワーク参加自治体として認められた。
https://www.city.akita.lg.jp/shisei/hoshin-keikaku/1011481/1004689/1005192.html
ニューヨークやロンドン、台北も入っており、高齢者に優しい街づくりとか、東京大学も居たんですけれども、グローバリゼーション枠の中に秋田市が日本で初めて参加したのですが、役所だけでなく、具体的にムーブメントを起こそうと、高齢者に社会交流を促し、それできちっとキャッシュフローを生み、元気に育ってもらうという、そういうコンセプトで秋田銀行さんと秋田魁新報社さんとで法人(注2)をつくりました。
今、渋谷に「ハチふる」という秋田犬の物販の軸があるんですけれども、そこにぬいぐるみのバンダナを結んだりとか、袋に入れたりとか、そういうようなことを高齢者の方々に時給をお支払いしてやっていただくだとか、あるいは高齢者施設のところに行ってフレイル予防の活動を行うとか。
学術的にきちっとバックグラウンドがあるんですけど、そういうこともチャレンジしながら、高齢者の方々に対してキャッシュフローの還元もでき、高齢者が元気になるというようなところがやっと見えてきたので、もっともっとスピードアップしたかったんです。
この法人が「ALL-A(注2)」という名前ですが、リビングラボという共創活動を行なっています。多くの企業では研究室で製品が生み出されるわけですけれども、リビングラボって消費者側にそのラボを置くという、半製品のものを外に出して、そこで実際に使ってもらいながら商品の開発をしてもらうという機能を持っている。
そういうような機能を持つようなことを、「エイジ・フレンドリー・リビングラボ秋田」ということでオール1か2ぐらいしか取ったことのない末廣が「ALL-A」というネーミングをつけて(笑)、・・・これはちょっとオシャレすぎてあんまり集まらなかった・・・というのが高齢者の取り組みです。
今、ALL-Aの高齢者の方々の会が320~330名ぐらいまで行きましたかね。その人たちは電話をかけたらすぐアルバイトに来てくれたりだとか、料理教室をやったりとか、いろいろなことをやっているんですけれども、これから出てくるんじゃないか、あるいは化けさせなければいけないと思うような取り組みをしています。
注2: ALL-A (Age-friendly Living Lab AKITA)
民間事業者とシニア世代によって新たなサービスや価値を共創する「リビングラボ」を運営するために、秋田ケーブルテレビ、秋田魁新報社、秋田銀行により設立された会社。
リビングラボプロジェクトを通じて、高齢社会における課題解決を民間事業者が牽引するという、全国的に見ても例の少ない取り組みを行なっている。
主な事業はイノベーション支援環境の企画・運営、イノベーション支援に関するコンサルティングサービス、高齢者就労に関する調査・研究、各種教室・講座・ワークショップ等の企画・運営など。
(ALL-Aホームページ https://all-a.jp/ より抜粋)
3. 駅前の映画館や秋田犬保護活動
CNA/末廣:もう一つが、今日このインタビューしていただいている場所。もともとこれは映画館であって、5つの映画館が入っているビルに駅から傘をささずにそのまま来れる。
たまたま商社時代の同期社員が双日の子会社としてビルを所有して運営していた頃、その会社で当時副社長をやっていましたので、時々会った際に「あれ売れよ、秋田で商社が持っていても面白くないだろう」と相談していました。
「まだ興味ある?」みたいなメールが来て、「安かったら買うよ」というところで、とんとん拍子にうまいチャンスで購入できたという話です。
B to Cの事業というところだけに依存していたら、一番最初にやられてしまうケーブルテレビ局だということで、これも買収させてもらいました。(注3)
注3: 秋田新都心ビル株式会社
http://www.e-alve.com/
人口減少は止めることはできないんですけれど、ちょっとでも人口の減り具合を少なくするという部分と、やはり県内を豊かにすることで、『物を県外へ、人を県内へ』という考え方。
そういうところを海外向けコンテンツもタイだとかに、総務省さんから2分の1の補助をもらって、向こうのテレビ局で放送したりしていたんですけれども、やはりキラーコンテンツということでは、Dog of Akita、秋田犬がこの秋田のいわゆるふるさとである。ふるさとの名前が犬の名前になって、それで海外にも秋田。
秋田犬もやはり秋田のキラーコンテンツとして我々何ができるかというようなことを考えて、もう7年ぐらい秋田犬の保護活動をするような一般社団法人(注4)を設立したり。
注4: 一般社団法人 ONE FOR AKITA
http://www.saveakita.or.jp/ofa/
あとは渋谷のスクランブルスクエア、渋谷駅の上のビルに、たまたま空きが出たということで、そこを家賃も聞かずに借りるよということで、今、物販スペース(注5)というのが展開していたり、そういうことを進めていき、だんだん本題に入ってきますけれども、やはりその地域でDXの担い手になるというのが2030年のビジョン。
注5: ハチふる SHIBUYA meets AKITA
https://www.hachifull.jp/
JLabs/宇佐見:どうもありがとうございました。
本当にあらゆることにチャレンジして、しかもそれを一つ一つ地域、それから、市、県、自治体、あるいは国の政策までですね。
これだけ、結果的につながったとおっしゃいますけれども、やはりそれだけ広い視野をお持ちの末廣社長の思いが、社内全体に伝わってきますね。
『新しい動きを起こしていこう』・・・、これラボでは『ケーブルテレビの再発明』という言葉を使わせていただいておりまして、それは技術なんですけれども、今のビジネスでも再発明できちゃうんじゃないかと思っています。
CNA/末廣:まず一つは、『僕が』じゃなしに『みんなに』やってもらっていて、不動産は別ですけれども、ほかはもうみんな一生懸命。技術のことがわからぬ土木工学科ですからね私。目に見えない「ミリ波」とか何か言われてもよくわからないですよね、「bps」とか言われても・・・(笑)。
今日は特にデータセンター絡みというか、そういうネットワークの件で技術というか、分かっている人に来てもらっているし、IoTの方も来ています。何でも質問して困らせてやってください。
本日は(株)秋田ケーブルテレビの末廣社長にさまざまなチャレンジのお話をお聞きしました。
どうもありがとうございました。
▶▶▶▶Part 2へ続く