No.3 <Part 2>(株)秋田ケーブルテレビ(秋田県)

2024年4月号掲載

インタビュー動画はこちらから ⇒ Youtube

第3回 <Part2>: 地域IXによるトラフィック流通効率化

【CNA 会社ロゴマーク】
【CNA 会社ロゴマーク】
写真 右から
インタビュアー:(一社)日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏
(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏
同社 事業創生本部 サブマネージャー 遠藤和幸氏
同社 事業創生本部 リーダー 島田恵太様氏
写真 右から
インタビュアー:(一社)日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏
(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏
同社 事業創生本部 サブマネージャー 遠藤和幸氏
同社 事業創生本部 リーダー 島田恵太様氏
1. 地域IX導入と実証実験のきっかけ

JLabs/宇佐見:秋田ケーブルテレビの地域IX導入のきっかけを教えてください。


CNA/末廣:県のIX事業を受けていた秋田県内の会社があって、その会社の創業者(社長)が、ちょっと体がしんどいということで引き取ってくれないかという話があり、そこで働いていた社員も含め、吸収分割というかCNAと一緒になりました。
秋田県との契約なども全て引き継ぐような形でやって、それからやはり8年前ぐらいですか、そのときにデータセンター事業という新たなキャッシュフローを得ることができました。それにも増してすごく良かったのは、今日残念ながら出席できていない安保本部長だとか、島田君はその後で入ったんですけれども、そのネットワーク担当の人たちも一緒に来ていただくことができたというのはとてもツイていたというか。ラッキーと言えばラッキーだったと思うんですけれども、秋田の他の地域だったら、こういう仕事は回ってこないなと感じています。
今、デジ田(デジタル田園都市国家構想)というか、岸田総理のところで、その情報通信系でこんなことをしなきゃとかデジタルデバイド解消だとか、海底ケーブルを日本一周回すという図面がある。
北海道の方から来て秋田まで海底ケーブルがあって、日本海はなかったんですね。それを福岡ぐらいまで持っていくのと、途中、枝分かれして福井だとかに落として、大阪まで持っていくという、これがやはり数百億とか数千億かかるかもわからないですけれども、そういういわゆる国のプランがありまして。これはあくまで想像ですよ。
それがあるからみたいな話は決して言わないんですけれども、それともう一つは、やはり再生可能エネルギーが今海の方に行ってみたら、もう洋上風力も商用運転していますし、どの事業者にやらせるかというのが決まっている。だから原子力発電所何基分みたいなところまで今度、一重、二重、三重までやるというような話で、それがやはりデータセンターっていうデータを扱うところは電気を食う。今の生成AIじゃないですけれども、Amazonなんていうのも再生可能エネルギーを使ったデータセンターでしか動かないみたいな話であったりだとか。
そういう意味ではデータを光で送るロス率と、電気を送るロス率というのは、電気を送る方がロスが大きいんですよね。例えばどれぐらいの距離かわからないけれども、電気をやったら50%に落ちるけど、光だったら80%残りますよ。
やはりそういう再生可能エネルギーの近くに、電気を食うデータセンターを置いた方がいいんじゃないかと、そういうところで、やはり国の方もイメージされたと思うんです。

(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏
(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏

令和3年で8,000万ぐらいやったか7,000万ぐらいだか・・・。これは東北エリアだけのケーブルテレビ局さんと、そういうところのデータを集めて、どれだけトラフィックを流すことによって、うちのデータセンターよりもちょっとシャビーなセンターなんですけど、そこで折り返ししたらどれだけ減るかみたいな話。
それで1年目をやり、2年目もケーブルテレビ局は宮崎県の都城のBTVさんとうちの2社が選ばれて、今度はもうちょっと大きく大阪まで持っていったのかな。そういうところに今度は北海道も入れて、ケーブルテレビでは僕らCNAと、データとしては電力系の北海道電力の子会社と東北電力の子会社のデータなんかも一緒にまとめてどれだけ効率化できるのかという話。
キャッシュを置いてですね、そういうようなことをしたと。だから僕らがギリギリに取りに行ったというよりも、何かアリバイづくりみたいな、それだけこういうデータがありますといったことで、秋田も今度、それ用の土地の計画づくりなんかも始まっています。データセンターが来るかどうかわかりませんが、そうした国策と地域とがうまいこと重なって、その前段で我々のところに実証実験ではなく、データ取りというか、どういう効率化ができたかといった実務的なデータを納めたぐらいの話ですね。それが一つ。
それから、もともとそういうデータセンターみたいなところの事業をやっていたところに吸収合併することで、そこに人もついてきていただいたというところと、地政学的にそういうような大きな上位計画があった中でできたんじゃないかなと思ったりはしています。

2. 令和3年度、4年度の実証実験

JLabs/宇佐見:令和3年度と4年度で連続して、トラフィックの流通効率化に向けたローミング提供型の集約ISPに関する調査研究を実施されていると聞いておりますけれども、そのきっかけは今、社長にお伺いしましたので、その経緯ですね。その苦労とかを、お伺いしたいと思います。

CNA/島田:そうですね。令和3年度の実証に関しては、地域のプロバイダーということで秋田県内に閉じたところでした。
もともと地域プロバイダーと言ったところで、総務省さんの実験以前から集約するとの話もありましたので、ちょうどタイミング良くいきました。ですので、そちらに関してはさほど苦労はなかったかなと記憶しています。
令和4年度については東北のエリアと北海道のエリアに拡大しての検証になっておりましたので、各地域でトータル7社との調整が必要になったという点では大変なところがあったと認識しております。

JLabs/宇佐見:なるほど、みなさん大変御苦労されたと思いますが、一番御苦労されたのは秋田ケーブルの社員の方々だと思います。
普段忙しい業務をやっていながら、新しいチャレンジをやれと言われるようなことで、社員の方々から「何でやるんだ」とか「反対」とかそんなようなことはありませんでしたか?

CNA/島田:そうですね、特別そういったものはなかったですね。
業務に支障のない範囲で可能かどうかという点については、事前に社内でコンセンサスをとっていて、その上で挑んでいるので、そういったことはなかったですね。
また、当社では新規事業への積極的なチャレンジを推奨しておりますので、そういった反対意見というものがなかなか出てこないです。

(株)秋田ケーブルテレビ 事業創生本部 リーダー 島田恵太氏
(株)秋田ケーブルテレビ 事業創生本部 リーダー 島田恵太氏
3. 実証実験の構成

JLabs/宇佐見:なるほど、やはりそういう企業文化というかチャレンジ文化だということですね。
ちょっと技術のお話に移りますけれども、このトラフィック流通の効率化というと、いろいろな方法がある。
その中で、今回の地域IXやCDN利用の仕組みを提案した理由というところがあれば、お伺いしたいと思います。

CNA/島田:そうですね、CDN利用といった仕組み自体はかなり以前から地域のIX等を行なっているエリアでは一般的な話ですので、特別今回の実験で使用したといったところに理由はございません。
地域に共有できるキャッシュ装置を置くことにより、トラフィックの効率化削減効果を得られる測定できる機会といったものを与えてもらえたことをすごく感謝しております。

JLabs/宇佐見:そもそもこの実証で使ったネットワークやシステムの構成とか特徴があれば教えていただけますか。

CNA/島田:令和3年度のものについては、秋田県内に閉じたネットワークで検証を行なっております。
構成としては秋田県内の他地域のISP3社と県内の1大学に参加いただいて、NGN網(※2)や専用回線で接続し、当社にあるキャッシュを共同利用すること、共有する形の構成で検証に挑んでいます。
令和4年度については、東北エリアの通信事業者6社と商用IX事業者の1社の計7社で、弊社に置いてあるコンテンツキャッシュサーバー(※3)を共同利用しての検証を行なっています。

令和3年度(左)、4年度(右)の実証実験ネットワーク構成図
令和3年度(左)、4年度(右)の実証実験ネットワーク構成図

JLabs/宇佐見:システム自体は、検証用に閉じたものなのでしょうか?それとも実際にお客様が利用するトラフィックも流れているんでしょうか?

CNA/島田:はい。こちらについては実際のお客様が使用しているトラフィックも流れております。
やはり、実際のトラフィックが流れている環境下で検証を行わないと、具体的な効果が得づらいといったところもございますので、そのような環境の中で実証実験をさせていただいております。

4.実験結果

JLabs/宇佐見:なるほど。構築だけではなくて、検証期間中もシステムをそのように運用したり、さらに効果をどうやって測定するかという、これも結構難しい問題だと思うんですけど、他の事業者さんとの連携スキームの中で、そこはどういうふうにされているんでしょうか。

CNA/島田:令和3年度については、一般的に商用IXが使用しているレイヤー2のIX的な集約というより、レイヤー3のIX、トランジット提供も含めた形での集約でした。
弊社のお客様になっていただいた接続先を対象としていましたので、弊社主導で調整が可能だったので、そういった連携をといったところには大きな問題は発生しませんでした。
令和4年度の実証実験に関しましては、各通信事業者同士が連携効率化するということなどいろいろありましたので、連携するにあたっては、チャットのツールやクラウドストレージなど、メールの会議などを実施しながら、情報の共有と連携を図った形になります。

JLabs/宇佐見:最終的な令和3年度、4年度の結果というのを簡単に教えてください。

CNA/島田:CNAに設置した複数のコンテンツキャッシュサーバによる、県内ISPの上位回線トラフィック削減として、令和3年度は36%程度、令和4年度は22%程度の効果が得られました。
令和4年度の結果が3年度よりも14%程度効果が低下してしまった要因としては 、令和3年度はQwilt(※4)と呼ばれるキャッシュサーバを活用できたことによる削減効果が一定量あった点と 、令和4年度では、大手CDN事業者(※5)のキャッシュが効果を発揮できなかったISP事業者があったためと考えられます。

JLabs/宇佐見:効果の方はそこそこ出たというところで、今後このネットワークはどういうふうに進化していくとお考えでしょうか。
例えば、地元のコンテンツや人気のコンテンツの配信などにもいろいろ活用していくような傾向なんでしょうか?

CNA/島田:令和3年度の実証時期において、接続いただいた地域ISPとか県内の大学様に関しては引き続き利用をしていただいておりますので、追加でき得るのであれば、このインフラを活用して新たな提案といったものを行なっていけたらなと考えております。
令和4年度に関しましては、7割から8割の方々が環境といったものを引き続き利用していくことになりましたので、こちらのインフラについても地元ならではのコンテンツの配信等で地域間で交流とかに活用していけたらいいなと考えております。

5.人材育成など

JLabs/宇佐見:次の質問は末廣社長にお伺いしたいんですが、こういった新しいチャレンジをするために技術人材、社長のお話ですと、もしかするとビジネス人材も含めてだと思いますが、そういう人材の確保とか教育に苦労されていると思いますが、御社ではどのように解決していこうとされているのでしょうか。

CNA/末廣:こればかりは解決の糸口もまだ見えていないんですけれども、冒頭にも言いましたが、たまたまいわゆるネットワークをよく知っている人間と、会社もろともと言ったらおかしいですけれども、一緒に働けるようになって、今日ずっと説明していた、島田君も実はケーブルテレビにその会社が合流した後、知り合いだからというもので一緒になれただとかですね。
やはりどこのケーブルテレビでも結構苦労されているんだと思うんですけれども、技術者やネットワークを知っている人、無線事業をしている人など、なかなか来ないですよね。だからそこはやはり地道に育てていくのと、現場を踏んでいってもらうと。
あと、JANOG(※6)という技術者のネットワークにおいては、年に2回ほど大きなイベントを開催しているので、例えば今日出席できなかった人財が、東北と北海道の集まりの立ち上げをやったりして、そうした場にも出ていく。海外も含めてそういうようなことをどんどんやっていくことによって、自分自身もっと勉強しなければいけないだろうといった、そういう状況をつくり出していくのが一つの方法かなと思ったりはするんです。
技術者を募集と言ってもなかなか来ないし、理系ばかりではなく文系でそういうところに興味がある人というのも、やはり入ってきますし、他と比べると揃っているとは思うんですが、人数的には倍はほしいです。

JLabs/宇佐見:色々な検証を通して、あるいは東北・北海道の事業者さんを通じてやった結果を全国の事業者さんにも共有していただいたり、広域ネットワークを本当に全国で構築したり、あるいはさらに自治体のネットワーク等々にも利用してもらうような前広に考えた時に、今回の経験を通じて気づいた点とかアドバイスがあれば最後によろしくお願いします。

CNA/島田:一般的なお話となってしまいますが、自治体等に利用していただく場合は、やはりある程度の品質、信頼性といったものを担保していくのが重要なのかなと考えております。
そのため引き続き品質の確保と対象外性の向上といったところに努めてまいりたいなと考えております。

JLabs/宇佐見:どうもありがとうございます。
日本ケーブルラボでも来年度のテーマにネットワークの品質確保、それから測定方法、この辺しっかりまとめさせていただきたいと思います。今後とも色々情報共有させてください。ありがとうございました。

インタビュアー:日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏
インタビュアー:日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏
用語解説
IX(※1):(Internet Exchange):
複数のISP事業者やコンテンツ事業者が相互に接続されて、トラフィックを相互にやり取りしている拠点

NGN網(※2) :(Next Generation Network):
従来の電話網がもつ信頼性・安定性を確保しながら、IPネットワークの柔軟性・経済性を備えた次世代の情報通信ネットワーク。 日本では2008年3月から 「フレッツ光ネクスト」の名称でサービスが開始された

コンテンツキャッシュサーバ(※3):
コンテンツを管理するオリジンサーバからコンテンツの複製を保存しておき、ユーザから要求があった場合にオリジンサーバに代わってコンテンツを配信するサーバ

Qwilt(※4):
Open Cachingと呼ばれる標準化されたコンテンツ配信技術を利用し、ISP事業者とコンテンツ事業者の双方にとって最適なコンテンツ配信システムを提供するCDN事業者

CDN事業者(※5):(Contents Delivery Network):
数多くのキャッシュサーバーなどで構成されたプラットフォームを用いることにより、コンテンツを迅速に効率よくエンドユーザーに届けるための仕組みを有する事業者

JANOG(※6) :JApan Network Operators’ Group:
インターネットにおける技術事項やそれにまつわる事柄やオペレーションを議論、検討、紹介するグループで、年2回大きなイベントを開催している