次なるステージに向けてスタートを切った
新たな収益を求め画期的な事業に着手
米国式KPIの導入による加入者獲得とともに、2000年に(株)タイタス・コミュニケーションズ、09年に(株)メディアッティ・コミュニケーションズを吸収合併するなど、M&Aも次々に展開し、成長していきました。また、KDDIがLiberty Global, Inc.グループの保有株式を取得、その後、2013年のKDDIと住友商事による公開買付(TOB)完了後、2社共同経営体制に移行、同時にKDDIが運営していたジャパンケーブルネット(株)もグループ化しましたが、この成長をどのように見ていましたか。
氏本:まずM&Aについて。私が米国で学んだMSO経営手法のひとつが「クラスター戦略(地域隣接のCATV会社を買収し広域エリア展開するもの)」だったので、J:COMは正しい道を歩んでいると思いました。ケーブルテレビ事業は、単にエリアを拡大するだけでなく、マーケティング、技術オペレーション、番組制作等々の共通機能を隣接しているエリアでまとめて効率化を図ることが重要です。面となったエリアでひとつに束ねたそれらの共通機能をMSOが一括して運営していきます。
提供サービスの多様化も進んでいきます。営業部長として、この状況をどのように分析されていましたか。
氏本:多チャンネル放送のみだったサービスメニューが、その後電話、インターネット接続サービスと拡大していきますが、J:COMとしてはインターネットよりも先に電話を提供していたことが営業上大きなメリットになりました。よくよく考えてみるとJ:COMにとって電話事業参入はとても大きなターニングポイントでした。
当時のJ:COMは訪問営業が基本。多チャンネル放送のみを売りにしても玄関のドアが次第に開けていただきづらくなっていく状況でしたが、「電話料金が安くなります」というフレーズで多くのお客様にドアを開けていただけるようになりました。また99年からインターネット事業を開始していますが、当時のインターネットはダイヤルアップやISDNが主流。大幅な速度増をもたらすインターネット事業も成長において大きな商材でした。
テレビ、電話、インターネットの3サービス展開、いわゆるトリプルプレイは今やグローバルでみても固定網事業者の常識ですが、当時はJ:COMがコマーシャルベースでトリプルプレイを提供した世界初の企業でした。新商材でいえば、05年から開始したVODもインパクトがありました。オンデマンド・動画視聴は今でこそ普通ですが、その当時は最新のサービスであり、J:COMがテクノロジー面でも最先端を行く企業であることをアピールできたことは非常に大きかったと思います。
今後さらに競争は激化していくと思います。J:COMの次なる成長戦略とは。
氏本:まさに、今、J:COMは次なるステージに向けてスタートを切ったところです。今後、FTTN Plusと呼ばれるより高度なHFCインフラの建設、第3世代STB等、事業成長に不可避な投資を実行しつつ、いかにして新たなビジネスストラクチャーを構築していくかが問われています。既存ビジネスの維持・進化のみを前提とすると、高まる償却負担から今後の収益増は期待できません。競合企業に打ち勝つ新たなサービス、新たな収益ビジネスが求められています。
そんな危機意識のもと、18年4月にビジネスイノベーション部門が立ち上がりました。この部署では、解約防止策や獲得増強策ではなく、2年後、3年後、5年後を見据えた商品設計・開発を進めており、社員による新ビジネススキームの提案制度「JIP(J:COM InnovationProgram)」も昨年7月に立ち上げ、想定を超える321もの企画が寄せられました。残念ながら余り詳細はお話しできませんが、今秋には実証実験を行う企画もあります。うまく進めば、画期的な事業のひとつになると思います。
若手へのエールをお願いします。
氏本:ケーブルテレビ事業に熱意をもち、愛してもらいたいと思います。私はケーブルテレビ事業を愛していると自分で勝手に思っているので、会社はもちろん、産業そのものがより羽ばたいてほしいと心から望んでいます。事業・業界そのものを愛していれば、自ずとパワーが生まれ、地道な努力もできると思います。覚悟をもって臨んでほしいですね。
photo by 浅井考秋
PROFILE 氏本祐介 UJIMOTO YUSUKE
1987年4月住友商事(株)入社、1997年11月(株)ジュピターテレコム 九州支社長補佐、03年10月(株)ジェイコム東京取締役 西エリア局長 兼 オペレーション統括部長、05年2月(株)ジュピターテレコム マーケティング・営業本部長補佐 兼営業部長、17年4月住友商事(株)理事、(株)ジュピターテレコム 上席執行役員 ケーブルTV事業部門 副部門長、18年4月(株)ジュピターテレコム 常務執行役員 ビジネスイノベーション部門長に就任し、現在に至る。