オーエスエスブロードネット(株)
イッツコム、OSSBN「OPEN STM」採用
ケーブルモデムの監視をスタート 10分間隔で194の指標を取得
コロナ禍の苦しい状況ながらもインターネット接続サービスへの加入数を伸ばしてきたケーブルテレビ業界。そのケーブルテレビは、今後地域DX基盤としての役割も期待されている。そのためにはネットワークの高度化と共に品質管理も重要なポイントとなる。ネットワークの安定性および顧客対応改善に向け、イッツ・コミュニケーションズ(株)(東京・世田谷区、以下イッツコム)は、オーエスエスブロードネット(株)(神奈川・川崎市、以下OSSBN)の「OPEN STM」を採用し、ケーブルモデムの監視を開始した。
竹岡 肇 氏 イッツ・コミュニケーションズ(株) 技術本部IPプラットフォーム 主幹(中央)
渡辺 豊 氏 同 技術本部 IPプラットフォーム部 監視チーム アシスタントマネージャー(左)
宮﨑 健彰 氏 同 カスタマー本部 業務統括部 アシスタントマネージャー
0130万台のケーブルモデム監視に向けてDOCSISに詳しいOSSBNに依頼
イッツコムは、東急電鉄沿線をサービスエリアとするケーブルテレビ局。接続世帯数は99万世帯と、独立系ケーブルテレビ局としては最大級だ。ケーブルインターネット接続の加入者数は2023年5月現在で28万5,128世帯に上り、そのインターネット接続サービスは「RBB TODAY ブロードバンドアワード2022」のキャリア部門(エリア別総合)関東で最優秀に選ばれるなど、顧客満足度も高い。
そんなイッツコムだが、解決したい課題があった。それがケーブルモデムの監視だ。同社技術本部IPプラットフォーム 主幹の竹岡肇氏はこう説明する。
「伝送路やCMTS(Cable ModemTermination System)をはじめとしたヘッドエンド機器の監視体制はありますが、加入者宅に設置するケーブルモデムの監視体制は不十分でした。お客さまにとっては快適なインターネット環境が重要であって、不具合の場所がどこであるかどうかは関係ありません。場合によっては、お客さまのPCやWi-Fiが不具合の原因の場合もあります。そのためにはケーブルモデムの監視は必須。しかし、これまでも数社にケーブルモデムの監視システムの開発を依頼しましたが、私たちが求めるクオリティとはなりませんでした」。
そこで、DOCSIS技術に詳しいOSSBNに開発依頼をしたところ、「OPEN STM」による提案を受け、OSSBNはイッツコムの協力のもと、監視システムの開発をスタートした。
0210分間隔で194指標のデータを取得 過去14日間のデータ閲覧可能
開発は、OSSBNの「OPEN STM」をベースにイッツコムの要望と実証実験での結果を踏まえて進めていった。ちなみに、「OPENSTM」は、ケーブルテレビ網、PON通信、5G、Wi-Fi7の管理・監視が可能な運用監視支援ツール。大量データをさまざまな角度から多変量解析し、潜在的な障害傾向や挙動を可視化するシステムだ。独自のパケット分割と再結合アルゴリズムにより、高速に情報集積が行え、端末機種の性能や特性差に基づき、収集時間やタイムアウトの頻発を抑制する機能を有する。また、3種類のポーリングデータ(リアルタイム&定期的ポーリング&指定ポーリング)方式を柔軟に組み合わせることができ、さまざまなデータ取得方法に対応する。近年では電力やスマートホームなどさまざまな産業分野にも応用されているという。
イッツコムが監視システムに求める基準は、「9メーカー24機種のケーブルモデム全ての監視」「24時間365日の監視」「多くの監視指標数の実現と監視データのトラフィックがインターネット接続サービスの速度に影響を与えないこと」というエンジニアの視点に加え、「お客さまからの問い合わせ時に監視データを素早く把握できること」と「過去まで遡って監視データを閲覧可能にすること」(カスタマー本部 業務統括部 アシスタントマネージャー 宮﨑健彰氏)というカスタマーサポートの視点までを網羅したもの。
幾度もの検証を経て、今年4月イッツコムでのケーブルモデム監視システムの本格運用が開始した。
竹岡氏は「完成したシステムは、10分間隔で全台数ポーリングデータを取得しています。ポーリングデータで取得できる指標はレベル・SNR、アップタイム、リセット回数、通信速度(上り下り、RF&LAN)、DOCSIS S/Wバージョン、帯域幅など194項目。この取得したデータは14日間保存可能です。開発時強く要望したのが10分間隔でのポーリング。インターネットの不具合は、数分不通になった後に何事もなく復旧するケースが多い。10分間隔ならば、取りこぼす障害をほぼ無くせます」と語る。
また、技術本部 IPプラットフォーム部 監視チーム アシスタントマネージャーの渡辺 豊氏は「全機種を同時に監視できることはとても嬉しく思います。提供するサービスコースの通信速度でチャンネル数が異なり、検知する指標数も異なりますが、ここも同時対応です。ポーリングデータがインターネットのトラフィックの妨げになることもありません」とシステムを評価する。
03カスタマー対応にも直結する機能性 顧客ロイヤリティ向上に役立てたい
カスタマー対応においても今回の監視システムは高評価を得ているという。
「管理画面のUIも実験段階からオペレーターを管理する社員にも加わってもらい、あらゆる意見をぶつけて反映していただきました。その結果、とても使いやすいUIが完成しました」と宮﨑氏は語る。
UIもさることながら、機能性の評価についても宮﨑氏は力説する。
「速度低下が起きるなどのトラブルが発生する場合、お客さまの電話によるお問い合わせ時点では問題が改善してしまっているケースが多く、原因特定が困難でした。原因を特定するために1週間ほどお時間をいただき通信監視を行うこともありますが、1週間のお時間をいただくことに苦言を呈されたり、監視期間中に症状が再現しなかったりとご不満が積もることが課題と感じていました。今回のシステムは14日間分を遡ることができるため、“5日前に通信がつながりにくかった”といった問い合わせにも実際に障害が起こったのかを瞬時に画面上で検証でき、仮に起こっていた場合の原因が弊社側設備なのか、お客さまのPCやWi-Fi環境が原因かが、入電時から数秒で把握できます。そのため自信をもってお客さま対応が行えます」。
宮﨑氏は「MACアドレスでの検索はもちろん、住所や郵便番号、ノードやエリア単位での検索もできるため、伝送路上の問題なのか、集合住宅への接続部分なのか、モデム単体のトラブルなのかが把握可能です。訪問対応を行うスタッフにも的確な指示が行えます」とも話す。
竹岡氏と渡辺氏も「グラフィックで取得データが見られるため把握しやすい。通信が途切れている、入出力に問題があるなど、ひと目でわかります。過去まで遡り検証することで、ある程度の障害予測にも役立ちます。また、技術本部とカスタマー本部で同じデータを閲覧することで、お客さまからの問い合わせ内容と故障原因のすり合わせが社内で行え、的確な対応ができるのもうれしい。原因が絞りきれていない中で“しばらく様子を見てください”とお客さまに伝えた後に再度不具合が起これば、それはもう致命的。解約につながりかねません。迅速な回答と対応は顧客満足度に直結します」と語る。
イッツコムは現在HFCからFTTHへのマイグレーションを推進中。「このシステムは、お客さまのトラフィック量も把握できるため、ヘビーユーザーの方には、“使用頻度が高いのでFTTHの方が快適ですよ”と乗り換えを推奨するなど、営業的な効果も望め、かつHFCの通信量の軽減が図れるのではと思っています。顧客ロイヤリティ向上にも使っていきたい」と3者は期待を寄せる。
また、今後に向けて「今後起こりうる事象を未然に把握することにもつなげていければ」と語るが、OSSBNではAIとの連携による事前察知機能の開発も検討しているという。