NHK技研、長寿命で省電力なディスプレー実現に向けて新たな有機EL用材料を開発(20.8.31)

NHK放送技術研究所(東京・世田谷区、三谷公二所長、以下、技研)は、巻き取りや折り曲げができるフレキシブルディスプレーの実現を目指し、有機EL(※1)の研究開発を進めている。
これまで技研では、プラスチックのフィルムで形成するフレキシブルディスプレーの長寿命化に向けて、陰極から発光材料に電子を供給する電子供給層の材料に、酸素や水分の影響をうけても劣化しにくい安定性の高い材料を開発してきた(※2)。
さらに今回、フレキシブルディスプレーの長寿命化だけでなく省電力化も実現できる、新たな電子供給層の材料として独自のフェナントロリン誘導体(※3)を開発(*)。有機ELでは、電子供給層が陰極から電子を取り出す際のエネルギーを小さくすると、ディスプレーの省電力化が可能。開発したフェナントロリン誘導体は、陰極を構成する金属元素と強い配位結合(※4)を形成することで、有機ELの電子供給層の材料として広く用いられているリチウムよりも小さいエネルギーで電子を取り出すことができる。
技研では本材料を用いることで、世界最高レベルの電力効率を示す有機ELの試作に成功。酸素や水分に対しても劣化しにくい高い安定性も併せ持つため、フレキシブルディスプレーの長寿命化も実現できる。
今回の研究成果は、7月24日にNature Communications誌に掲載。今後も長寿命で省電力のフレキシブルディスプレーの早期実現に向け研究開発を進めていく。

*本材料は(株)日本触媒との共同開発。
※1 有機エレクトロルミネッセンスの略。ある種の有機化合物を用いた層状の構造体に電流を流すと発光する現象。
※2 2019年9月17日報道発表「フレキシブルディスプレーの長寿命化に向けた有機EL用材料を開発」参照。
※3 窒素を持つ有機物質であり、金属に対して窒素から電子を供給しやすい特徴を持つ。
※4 有機物質から金属に対して電子を供給することで形成される化学結合。

図1 有機ELのしくみと開発したフェナントロリン誘導体の特徴