『開催迫る!放送業界必見のInterop Tokyo 2025』
2024年は3放送局間Media over IPに成功
(この特設ページは、B-magaメールニュース「Interop Tokyo 2025」特集号「開催迫る!放送業界必見のInterop Tokyo 2025」の内容を再構成したものです)
前回は画期的なMedia over IPを実施
「Interop Tokyo 2025」が6月11日(水)~13日(金)、幕張メッセで開催されます。今年も放送業界向けの展示・セミナーが用意されていますが、それを見るうえでも、1年前の「Interop Tokyo 2024」の段階では何が行われたかを振り返ってみましょう。
Interop Tokyo 2024の放送業界向け実証実験では、画期的な放送局間Media over IPが試みられ、成功しました。毎年Interop Tokyoでは、最新技術で構築したネットワークの技術検証と、そのネットワークでInterop Tokyo 会場内への通信サービス提供を行う恒例のプロジェクト「ShowNet」が行われています。Interop Tokyo 2024では、ShowNetの特別企画としてMedia over IPのトライアルが実施されました。
NHKなど3放送局間を接続
具体的には、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ北海道の4放送局が協力し、幕張メッセのInterop Tokyo会場内のShowNet会場と、NHK、日本テレビ、テレビ北海道の3放送局を専用線ではなく通常のインターネット回線で接続して映像素材を伝送し、リモートプロダクションを行いました。ShowNet会場には、中継先としてセミナー会場、スタジオに相当するメディアオペレーションセンターを設け、メディアオペレーションセンターと各放送局を接続し、各放送局が異なる内容のリモートプロダクションを試みました。
セミナー会場の様子はテレビ朝日のシステムカメラで撮影され、その映像をメディアオペレーションセンターに伝送しました。映像はメディアオペレーションセンターから、札幌のテレビ北海道に非圧縮で伝送。汐留の日テレにはJPEG XS で圧縮した映像を伝送しました。テレビ北海道ではバーチャルマスターでAIアナウンサーの解説映像をインサートし、日テレではロゴと文字をインサートし、それぞれ幕張メッセのメディアオペレーションセンターに戻しました。これらの映像はメディアオペレーションセンターからNHKに伝送し、NHKはテレビ北海道と日テレの映像をNHKの映像にインサートして、メディアオペレーションセンターに戻しました。メディアオペレーションセンターに設置した大型ディスプレイには、各放送局が加工した映像を4 画面に分割して常時映し出し、来場者に公開しました。
局内の放送機材の遠隔コントロールも
テレビ北海道は幕張メッセのメディアオペレーションセンターから、札幌の局内にある放送機材を遠隔コントロールしました。バーチャルマスターのシステムをメディアオペレーションセンターに設置し、送出する映像の切り替えやCG のインサートなどを幕張から遠隔でコントロールしたのです。日テレはNMOSコントローラーによるIP放送機器の制御テストも行いました。幕張のメディアオペレーションセンターの機材だけでなく、汐留の局内にあるNMOS対応機材に対しても一括で送受信コントロールを実施しました。
このMedia over IPトライアルには、4放送局のスタッフが延べ約25名参加しました。各放送局の技術担当者は、Media over IPを用いた映像制作や中継、素材のシェアリングを体感するとともに、リモートプロダクション環境における遅延やジッタなどネットワーク品質の影響などを検証しました。Media over IPのシステムは、毎年秋に開催される「Inter BEE」でMedia over IP企画「INTER BEE IP PAVILION」にも関わるメンバーを中心に構築しましたが、インターネットを通して複数の放送局間でMedia over IPトライアルを行なったのは初めての試みで、放送業界から注目を集めました。
前回のMedia over IPトライアルの技術概要
幕張メッセのメディアオペレーションセンターとNHK、日本テレビ、テレビ北海道の3放送局との接続には、L2VPNとL3VPN を利用し、メディア面と制御面の双方をインターネット経由で繋ぎました。Media over IPのメディア面をL2VPNで接続しただけでなく、制御面をL3VPN で接続しました。ShowNet側のラックにはVPNの終端装置を設置し、放送局側のIP放送機器と接続。放送局とは映像・音声の伝送だけでなく、制御に関しても接続し、ShowNet側からKVMを使って放送局側のIP放送機器にアクセスし、マルチビューワーで監視しながらスイッチング操作を行うなど、VPNを介して局側の設備をコントロールしました。
専用線ではなく一般的な回線を使用
放送局には以前から、専用線ではなく一般的な回線を使って、インターネット越しにMedia over IPを行いたいという要望がありました。これに対応して複数のISPが協力し、ShowNetと各放送局との接続にはインターネット回線を使用し、VPNを張りました。NHKと日テレ間は、ソニービズネットワークスの企業向けサービス「NURO Biz」を、テレビ北海道とは北海道のISPであるHOTnetのサービス「HOTCN」を使用し、インターネットエクスチェンジ(IX)を介して、L2VPNで接続しました。ISP内と、ISP-ShowNet間での調整も行い、映像がスムーズに伝送できるようにしました。ソニービズネットワークスとHOTnetの2 社が、NURO Bizなど企業向けサービスを通じて映像伝送が問題なく行われるように調整や調査を行いました。複数のIX越しにピアを張るため、ISP-ShowNet間ではどのIXにトラフィックを通すかといったことを調整しました。
メディアオペレーションセンター-テレビ北海道間のような非圧縮映像は1080iで、1本のマルチキャストストリームあたり1.3Gbps程度で伝送しました。日本テレビとの接続はJPEG XSの圧縮方式を使用し、約200 Mbpsで伝送しました。
このMedia over IPトライアルによって、専用線ではない通常のビジネス向けインターネットサービスを使ってMedia over IP が可能であることを確認できました。
SRv6を用いたMedia over IPの可能性
ShowNet側のセミナー会場とメディアオペレーションセンターの接続は、ShowNetのバックボーンのルーターを介して行いました。バックボーンはSRv6で構成され、その中でL2VPNで映像を伝送しました。マルチキャストを流すために必要なルーティングは、PIM/OSPFベースで行いました。バックボーン上でSRv6を用いてMedia over IPを行うネットワーク構成は、放送局内や放送局の拠点間でも活用できるのではないかと、Media over IPトライアルの関係者は期待しています。
また、Interop Tokyo 2024では、会場内の5GでもPTPを使用したため、ShowNetのPTP設備はMedia over IPと5Gの両方に、PTPによる時刻同期を供給しました。5GとMedia over IPに対して、異なるプロファイルのPTPの時刻同期の供給を一括して行うことを試みました。
このMedia over IPトライアルに参加した各放送局は、インターネット越しの映像伝送を試し、IP対応の映像制作機器の導入に向けた検証も行いました。これらの各放送局は、今後もMedia over IPの取り組みを継続したいと述べています。また、このトライアルに参加していない放送局からも、今後のShowNetのMedia over IPへの参加希望がありました。
(筆者:月刊B-maga編集部・渡辺 元)
参考:『月刊ニューメディア』2024年10月号「『Interop Tokyo 2024』レポート特集(前編)」
