No.3 <Part 3>(株)秋田ケーブルテレビ(秋田県)

2024年5月号掲載

第3回 <Part2>: LPWAを活用した防災に関する実証実験

第3回は(株)秋田ケーブルテレビ(CNA)を訪れ、
Part 1 : さまざまな分野へのチャレンジ
Part 2 : 地域IX(※1) によるトラフィック流通効率化
をとりあげ、きっかけや苦労話、現在の役割、さらには今後のビジョンなどをお聞きしました。

Part3となる今回は、由利本荘市と実施したLPWA(※2)による防災に関する実証実験を紹介します。

Part 1~3とも、インタビューは2024年3月8日、CNAグループが運営している秋田駅直結のリモートオフィス「Atelier AL☆VE」にて収録させていただきました。

【CNA 会社ロゴマーク】
【CNA 会社ロゴマーク】
写真 右から インタビュアー:(一社)日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏 (株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏 同社 事業創生本部 サブマネージャー 遠藤和幸氏 同社 事業創生本部 リーダー 島田恵太様氏
写真 右から
インタビュアー:(一社)日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏
(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏
同社 事業創生本部 サブマネージャー 遠藤和幸氏
同社 事業創生本部 リーダー 島田恵太様氏
1. 取り組みのきっかけ

JLabs/宇佐見:秋田ケーブルテレビがLPWAやIoT(※3)に着手したきっかけを教えてください。

CNA/末廣:IoTについては、ずっと昔からやりたかったんです。これが登場した時から技術を活かした新しいイノベーション、イノベーションとまでは言えなくても新しいソリューションを検討していました。
たとえば熊が出たらカメラで撮るだとか、いろいろやってみたけれど、なかなかうまいこといきませんでした。
ところが今、業界の中でIoTダッシュボード(※4)だとか射水ケーブルネットワークさん、となみ衛星通信テレビさん、ZTVさんなどの成功事例が進んできました。

実は3~4年前から、技術リレイティッドな部署として、社内横断的に営業をやっている人、コーポレートというか、いわゆる総務をやってる人などを集めて事業創生本部という組織を作っていて、B to BやB to Gの売上や収益を上げていこうという動きを進めていました。たとえば、ローカル5G(※5)の実証実験なども事業創生本部でやっていました。
そのなかにIoTはなかなかハマってこなかったのですが、秋田県の中には25の市町村があるので、これらの市町村に対して「CNA秋田ケーブルテレビは、こんなことをやっています」とPRすることにしました。
商品としてわかりやすくするため、水位計とか、カメラをつけたりだとか、積雪を測れるような、そういうソリューションを商品としてPRして動き回っていたら、ちょうどいいタイミングで仕事が入ってきました。
去年の7月に秋田で大雨があり、我々の道路ライブカメラ、河川カメラの価値というかバリューが上がってきた、ということもありました。エリア外であっても自前で「カメラをつけたら良いですよ」というPRもやりました。

(株)秋田ケーブルテレビ 代表取締役社長 末廣健二氏
2. 由利本荘市との実証実験のきっかけ

JLabs/宇佐見:由利本荘市と共同でLPWA技術を活用した実証実験を開始したそうですが、そのきっかけを教えてください。

CNA/遠藤:平成17年3月に1市7町(旧本荘市、旧矢島町、旧岩城町、旧由利町、旧大内町、旧東由利町、旧西目町、旧鳥海町)が合併して誕生した由利本荘市は、難視聴区域や情報格差の解消、市民生活の向上等を目的として、5カ年の整備期間を経てみずからケーブルテレビのサービスを提供していました。 平成から令和を経て、市によるケーブルテレビ事業の運営手法について協議を進め、「由利本荘市CATV民間移行推進計画」が策定され、令和4年、由利本荘市CATVセンターの指定管理者として株式会社秋田ケーブルテレビが指定を受けました。
由利本荘市は令和3年、4年と局地的な集中豪雨などにより、道路の冠水や住宅浸水といった被害が発生していたところで、秋田ケーブルテレビで何か課題解決できないかと相談がありました。
ケーブルテレビ業界としてはIoTの推進を進めているというところもあり、センサーやカメラを市内の河川や用水路に設置して、LPWAという無線技術を活用して水位の様子を把握したり、アラートを送信することで、配水の計画策定に貢献したり、避難情報を早急に出すようなきっかけにする提案を秋田ケーブルテレビから行い、実証実験が具体化しました。

3. 実証実験のシステム構成

JLabs/宇佐見:実証実験のシステム構成を教えてください

CNA/遠藤:令和3年、4年と2年連続で内水氾濫を起こした「大沢川」の4ヵ所に水位計センサー、1か所に雨量計センサーを、2ヵ所にWEBカメラを設置しました。
水位センサーや雨量計の情報をデータロガーからLPWAを利用して定期的に送信し、パソコンでリアルタイムに可視化し、スマートフォンにアラートを発出します。(図1)

JLabs/宇佐見:このシステムでLPWAという新しい技術を利用したと思いますが、それはどのような理由からでしょうか?

CNA/遠藤:無線局の免許申請が不要で、イニシャルコストが安価に導入できるというところが大きかったです。

JLabs/宇佐見:システムの構築でいろいろ難しい点などおありだったでしょうか。

CNA/遠藤:由利本荘市の案件につきましては、市が選定した複数の設置候補場所のLPWAの電波の強度も問題なく、構設置場所決定までスムーズに終わりました。構築も簡易的に済みましたので、特に困ったということはありません。

4.得られた成果

JLabs/宇佐見:実証実験の結果を教えてください。

CNA/遠藤:図2が水位計センサーや雨量計センサーから届いたデータの24時間の推移になります。
同じ市内でも場所により、水位の特徴が異なることがわかります。

JLabs/宇佐見:リアルタイムの可視化で日本ケーブルテレビ連盟のIoTダッシュボードを採用されたと聞いておりますが、その理由と、もう少しカスタマイズしてみたい点などがあれば教えてください。

CNA/遠藤:日本ケーブルテレビ連盟の方で推奨しているダッシュボードでして、開発費用がかからないというところが大きかったです。複数ベンダーのセンサーを一括で、同じシステムで見ることができるというメリットも大きいです。
改善したい点ですが、他の自治体も含めると、やはりカメラ映像のニーズが高く、そちらの方の静止画でもいいんですけれど、まだダッシュボードの方では対応していないので、センサーとカメラをセットで確認することができれば、もっと利便性が上がると思います。

JLabs/宇佐見:なるほど、ニーズが良くわかりました。
実証実験の調整などで苦労した点はありますか?

CNA/遠藤:由利本荘市様につきましては、そもそもデジタル化というか、DX化に積極的な市でございまして、こういった水害や災害に関する対策につきましては非常に協力的に動いていただきました。関連する部署の方も由利本荘市の担当の方から積極的に集めて頂いたので、調整に苦労することはありませんでした。

JLabs/宇佐見:こういった新しい試みを、また新たな社員でチームを組んでやるために、かなり意識改革を呼び起こす必要があると思うんですが、そういった組織が変わったり、社内に変化などがあったのでしょうか?

CNA/遠藤:まず、選抜されたメンバーの社員は、そもそも無線の知識がありませんでしたし、外に出てお客様に提案活動とか営業したりする経験がない人がほとんどでした。
そこで、アポ取りの練習や提案のロールプレイングですとか、無線の基礎とかは研修を行いました。
準備に時間がかかってしまい、なおかつその準備している最中に7月の大雨の災害がありましたが、そちらをピンチはチャンスじゃないですけれども、その後すぐ動けるよう進めていきました。

(株)秋田ケーブルテレビ 事業創生本部 サブマネージャー 遠藤和幸氏

JLabs/宇佐見:今後は恒常的な基地局なんかも建てられるんでしょうか?

CNA/遠藤:今年度の活動につきましては、サービス提供型のセンサーを使っておりますので、特に基地局を建てるとか、弊社の方で準備して建てるということはありません。

JLabs/宇佐見:今後それ以外の分野で、システムが広がっていくということがもし想定されていたら、お話を聞かせてください。

CNA/遠藤:昨年度、秋田県内の各地でクマの出没が非常に多く、やはりそれについて、例えばAIでクマを検知するカメラですとか、そういうものを提案していきたいと考えています。

5.今後の期待

JLabs/宇佐見:この実証実験から今後どのように期待されていますか?

CNA/遠藤:実証実験に加わった由利本荘市職員からは、「防災・減災については、危険な状況を正しく早く市民の方々にお知らせできることが大事なところです。このシステムによって急激な降雨や水位の高まりをリアルタイムに把握できること、かつカメラで危険な状況を視認できることは現地確認に要する時間短縮の観点でも大きなメリットとなります。」と、防災・減災に寄与するシステムとして期待されているとお聞きしました。
今回の実証の結果をもって、由利本荘市の市民の方の安全安心な暮らしに資するものになればいいと思っています。また、各自治体が抱える地域の課題であったりというのを解決する手助けができればいいなと思っています。

JLabs/宇佐見:LPWAからはなれて、御社の中でローカル5Gや他の無線技術をどうやって使っていこう、などを考えられていたら教えてください。

日本ケーブルラボ 専務理事 宇佐見正士氏

CNA/末廣:ローカル5Gというのも、東北の事業者の中では少なくとも秋田ケーブルテレビが一番最初にミリ波を当時はまだノンスタンドアローン(※6)でしたけれども、申請を行いました。また、サブシックス(※7)もやりました。
このリモートオフィス「Atelier AL☆VE」にもローカル5Gが、同じ建物内で広場の方にもサブシックスが使われています。
すぐ儲かる/儲からないという話と違って、やはり我々インフラ事業者というか、そういうところで新しい帯域が目の前にあったときに、何が何でも確保しておかなきゃいけないという商社的な勘も働いたかも知れないです。

CNA/末廣: 令和4年度ローカル5Gを使って、洋上風力のブレードだとかをドローンで高精細映像伝送するという実証実験を行い、総務省や経済産業省でユースケースとして取り上げられました。
固定された海上構造物に対して12海里までは使えるような無線の設計をして、我々が電波免許の資格をもってやりたいと考えています。
バルセロナのMWC(※8)でも展示されていたように、すでに世界では実用化されているので、秋田の海は秋田ケーブルテレビが抑えたいという強い思いがあります。
一昨年の11月にスターリンク(※9)が紹介されました。550km上空の衛星なので、距離による遅延はないし、ルーラルエリアに置いてローカル5Gに利用できるのではないか?まだアイデアなので考えていかなればならないのでしょうが、スターリンクが良いのか他のシステムが良いのかわかりませんが、無線もバックホールは衛星を使っていく世の中になるのかもしれません。

6.LPWAについて、その後の進捗

由利本荘市との実証実験に続き、秋田ケーブルテレビは大館市、八郎潟町、男鹿市、潟上市ともLPWA技術を活用した防災に関する実証実験を発表しました。
災害発生時の迅速な状況把握や冠水箇所特定による水路整備計画等への寄与、将来的な市民への情報発信等の防災への利活用検討など、安全・安心な暮らしの実現に資することがますます期待されます。

右から JLabs 宇佐見専務、CNA末廣社長、遠藤氏、島田氏
用語解説
※1:IX (Internet Exchange) :
複数のISP事業者やコンテンツ事業者が相互に接続されて、トラフィックを相互にやり取りしている拠点。

※2:LPWA(Low Power Wide Area) :
低消費電力かつ広域・長距離通信を特徴とする無線通信技術。通信するデータ量は少なく、Wi-Fiなどに比べ低速ながら、10kmを超える無線通信が可能。

※3:IoT (Internet of Things):
あらゆるモノをインターネット(あるいはネットワーク)に接続する技術。これまで主にパソコンやスマートフォンなどの情報機器が接続していたインターネットに、産業用機器から自動車、家電製品、各種センサーまで、さまざまな「モノ」が直接インターネットにつながっていく時代となる。

※4:IoTダッシュボード:
射水ケーブルネットワーク株式会社と株式会社ZTVが共同開発したもので、水位計、雨量計、積雪系、鳥獣用罠、気象、冠水、温度/湿度/CO²など、さまざまなセンサーからのデータを収集し、グラフィカルに表示し、配信できるプラットフォーム。日本ケーブルテレビ連盟が主導するIoTビジネス推進タスクチームにおいて、会員の各事業者が利用できるよう推奨している。

※5:ローカル5G:(Contents Delivery Network):
「高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」といった特徴をもつ「第5世代移動通信システム」を企業や自治体が携帯通信キャリアに依存せずに、自社の敷地に自ら構築・運用できる、独自の5Gネットワーク。

※6:ノンスタンドアローン (Non Stand Alone):
制御信号を扱う4Gのインフラを基盤として動作するローカル5Gの無線アクセスネットワーク。

※7:サブシックス (Sub 6):
周波数が6GHz未満を意味し、ミリ波ほど高くないため、電波が遠くまで飛び、障害物を回り込んで届きやすい特徴があるものの、割り当てられる帯域が狭いため、ミリ波ほど高速な通信は期待できない。

※8:MWC (Mobile World Congress):
世界最大級のモバイル関連展示会およびカンファレンスで、毎年2月下旬にスペイン・バルセロナで開催される。

※9:スターリンク (Starlink):
スペースX社が手がける高度約550kmの低軌道を回る衛星を使った衛星通信サービス。